むかしむかし 一

 

北東アジアの歴史に関する、この研究プログラムを始めた背景には何があったのでしょうか。

 

私はアフリカのカメルーンで生まれ育ちました。子供の頃からずっと、日本は私にとって身近にありました。1974年にヤウンデのEcole du Centre校で、日本人のクラスメートと出会い、私たちはいい友達になりました。彼の歌の一つを覚えていますが、それは、横浜の港から旅に出た少女についての歌でした。1999年に、日本を訪れる機会を得ました。横浜に行かずにはいられませんでした。山下公園のベンチに座っていると、小さい頃の記憶が押し寄せ、あの歌の少女もここにいたかもしれない、ということを考えて喜びに圧倒されました。高校と、それから大学に進んでも、私とその日本人との友人関係は続きました…。

 

逆説的のようにも思えますが、決定的だったのは、ある韓国人の生徒と出会ったことでした。パリにある彼女の所属しているキリスト教コミュニティに、彼女のおかげで入ることができました。そのコミュニティの熱心な活動は、パリのその地域に住んでいる韓国人に絶大な影響力がありました。

この教会内に、うまく組織化された小さな社会を私は見出したのです。この地域の他の韓国人教会と併せて、三千から四千人もの信者がいました。このコミュニティはフランスの、さらにはヨーロッパの他の都市とも活発にネットワークを形成していて、メンバー同士が頻繁に交流していました。

 

聖歌隊のメンバーであることに加えて、私は教会メンバーのために行うフランス語の無料レッスンや、法律相談サービスを運営していました。

彼らの言語を学ぶこと以上に、こうして、友人たちと毎日親密に関わることによって、韓国人の情緒的、精神的宇宙とでも呼ぶようなものへのしっかりとした理解ができていきました。

韓国社会が機能するにあたって、対人関係が重要な役割を果たすということは、心に留めておくべきです。伝統を守り、伝えていくために、また、集団的・個人的なアイデンティティを形成していくために、こうした組織だった、社会的に監督された人間関係が果たす役割は決定的です。

 

コミュニティに参加してから4年経ったときのことです。友人たちの非言語的な表現ーー彼らが考えたり自分の気持ちを表す方法ーーがいかに自分にとって身近なものになっているかを突然、実感しました。彼らが公共の場で見せていた態度、彼らの感情や音調といったもの、かつては奇妙で理解不可能に見えていたものが、突然自然なものに見え始めたのです。

友人たちの考えや感情が論理的に、くっきりと見え始め、もはや私に抵抗することなく入ってくるようになりました。

 

この小さな社会での個人的な経験は私にとって、とても豊かで特別なものだったので、韓国文化についての私の見方を発信しようと決めました。かつては一見、未知で異質に見えた文化を表現するのに、文学という形式は完璧な方法に思えました。

韓国文化を中心とした物語の枠組みをつくりだすのには大変苦労しました。正式なものとして語られている話は人工的で、その内容は非現実的に私には思えたのです。どれだけ想像力を駆使しても、そうした公式の歴史が語る出来事は、私の人類学的・民族学的経験とはほとんど関係ないように思えました。