わかりあえたらどんなにいいだろう

日本の敗戦から76年。

いまだに過去の過ちを直視せずアジアに対する侵略を正当化する動きが絶えない。

また、歴史的経緯や文化を知ろうともせず、異なるものを排除する動きも止まらない。

今年に入ってからも、福岡朝鮮初級学校に対するヘイトは続き、春には校舎のガラスが割られ、体育館に消化剤が撒かれるという建造物侵入・器物損壊事件も起こった。

 

機動戦士ガンダムの作画監督で、機動戦士ガンダムORIGIN監督の安彦良和氏の言葉を紹介します。

 

「長い歴史を見てわかるとおり、しょせん人間はわかりあえないし、その結果、戦いというものが起きます。でも、わかりあえないからといって、『みんな敵だ』となるとひたすらネガティブで悲惨な世界になると思うのです。だから、わかりあおうとしなくてはいけない。そのためには『なぜ、わかりあえないんだ』と嘆き悲しむのではなくて、『わかりあえなくてあたりまえだ』と考えるようにすればいいと思うんです。すべてはそこからはじまると」(安彦良和)

「これまでガンダムについては『戦争を賛美している』とか、『戦いの悲惨さを描いている』と、両極端の評価がされることがありましたが、はっきりいって、どちらもちがいます。テーマは『人間はなぜ、戦争をしてしまうのか』。それにつきるのだと思います」(安彦良和)

「わかりあえない時代や社会だからこそ、わかりあえたらどんなにいいだろう、というのがガンダムの最大のテーマです」(安彦良和)

「日本を清国との汚い戦争に向かわせ、しかも戦勝を利して過大な領土割譲を清国に強要し、独立保護の美名にかくれて朝鮮を支配下に置いて、両国人民の心に日本憎しの想いを植え付けた…それは、アジアに仇をなす行為だ」(安彦良和著「王道の狗」加納周助の言葉)

「清朝の故地、奉天省から遼東半島を割くことは、本来友好の関係にあらねばならぬ両国の間に百年のうらみをもちこむことになるだろう。過大な要求は清国民に日本への復讐心をうえつけることにもなるだろう」(安彦良和著「王道の狗」李鴻章の言葉)

「国家の安定とともに復元の動きが出るのはあたりまえなのですが、その方向をまちがってしまうと『日本は侵略なんかしていない』とか『植民地支配は悪だというけど、日本はいいことだってしたではないか』と。そのレベルまで戻りすぎてしまう。安倍晋三首相のやっていることも、戻っちゃいけない方向だと思うんです」(安彦良和)

「国は加害者であり、国民という弱きものはひたすら被害者であるという戦後教育が生み出した構図はウソだと思うんですよ。その論理でいくと、国民の自身に対する反省がなくなり、それで終わってしまう。そうじゃない。国だって国民の集合体で、代表である議員を選ぶときに投票したのは国民自身。結果的に保守政治になろうと軍政になろうと、それは選挙結果なんです。戦争もおなじこと。国民は戦争に行ってこいと、おなじ国民である兵士を送り出し、よくやったといって迎えいれたわけです。だまされたという被害者意識だけじゃいけないんです。満州にしても、当時どれだけの人が夢をいだいたことか。それを語らなきゃいけない」(安彦良和)

「イスラム国(IS)をはじめとした現在の世界の混乱は、すべて米国がひきおこしたイラク戦争(2003年)に端を発しています。フセイン政権を強引に崩壊させたイラク戦争は大義なき侵略戦争です。その戦争を日本国内で指示した人たちが、今度は安倍政権の安保法制を支持しています。それは、侵略戦争を認めることになり、きわめてあぶないと思うのです。集団的自衛権の行使を容認した日本は、米国が『テロとの戦い』とよぶ侵略戦争の一翼を担うことになるからです」(安彦良和)

「大量破壊兵器がイラクにないことについて、当時の小泉純一郎首相は国会で追及され、苦しまぎれに『現時点でフセイン大統領が見つかっていない。だからといって、フセインは存在しなかったと言えるのか』といった"迷答弁"さえ残しました。日本の米国追従もこれにきわまれりといえるでしょう。そんな主体性のない外交姿勢で、ただ強い米国に付いていれば安心というのでは、かえって世界中に敵をつくることになるのではないでしょうか」(安彦良和)

2021年8月15日記す

後藤富和