小児病棟保育士 星野さんからのメッセージ

2012年夏、「この病院にも犬がいたらいいのに…」と私に声をかけてきたのは、当時白血病で入院していた女児でした。女児は自宅で盲導犬のパピーウォーカーをしている最中に病気が発覚し、入院を余儀なくされてしまったのでした。病気発覚のショック、家族と離れるどうしようもない辛さ、大好きな犬との別れ…あらゆるマイナスの気持ちが心を覆っていたことと思います。私は“どうせダメだろう”と思いながらも女児の思いを伝えると、当時小児科医の佐野師長、小児科長江千愛医師が「できるよ、一緒にがんばろうよ」と言ってくれたのです。

勤務犬の導入は大変な道のりでしたが、当時小児外科長江秀樹医師が加わり、導入から現在に至るまで欠かす事の出来ない当時小児外科教授だった北川先生(現在大学学長)の尽力、日本介助犬協会とのご縁、そしてスタンダードプードル“ミカ”の存在により“どうせダメ”が現実となったのです。

2015年、初代勤務犬ミカ(日本介助犬協会より貸与)、初代ハンドラー佐野師長/長江秀樹医師の活動が始まります。活動開始当初からミカは、私が勤務している小児病棟で入院を余儀なくされた子どもに寄り添いました。入院中はさまざまな治療が否応なしに行われる日々です。薬の副作用で誰とも話したくない、顔も見たくないと思う日も少なくありません。そんな時でも「ミカには会いたい…」、その気持ちをくみ取るようにミカは子どもたちに黙って寄り添います。真っ黒なモフモフが子どもたちの心を覆った黒い雲を晴らしてくれるようでした。入院により誰にも話せない、話したくない気持ちを抱えてしまった時、その気持ちをどこかで発散し癒されなければ入院生活は人生の黒歴史でしかなくなってしまいます。その入院生活に自己肯定感をもたらしてくれる存在となったのが勤務犬ミカでした。

子どもたちはそんなミカの存在をそれぞれの表現の仕方で話してくれました。誰にも心を開かず医療者に反発していた少年は「ミカと一緒ならがんばれる。ミカは親友」と言いました。また、心に抱える闇を誰にも話せず無心に治療に耐えていた少年は「ミカがいなかったら入院生活を乗り越えられなかった。今生きているのはミカのおかげ」と。また、移植の治療により副作用で起き上がれないほどの吐き気があっても、窓越しにミカが来ると起き上がり窓に近寄り手を伸ばし窓越しにミカを撫で笑顔を見せる男児、言葉はなくてもその笑顔が十分に気持ちを表現してくれました。

子どもたちの心の雲が晴れると家族の表情も明るくなります。さらに病棟スタッフも明るくなり、医療者と子どもたちと家族とのコミュニケーションを深めます。こんな好循環をもたらしてくれる勤務犬の存在は、医療現場だからこそ必要なのだと心から実感しています。この活動がずっとずっと続くよう心から願っています。

聖マリアンナ医科大学病院　勤務犬運営委員会

小児病棟保育士　星野　薫(医療保育専門士)