映画監督の中村高寛さんから応援メッセージが届きました！

【中村高寛さんからのメッセージ】

2年に一度、山形国際ドキュメンタリー映画祭に行くのが楽しみだった。もちろん未知なる映画を観るのが目的であるが、《香味庵》に行くのも同じくらい楽しみだった。

自分自身、海外の映画祭に参加するようになって、ヤマガタの《香味庵》という存在がいかに特別だったのかが分かった。いや特別というよりも「映画祭とは何か？」という原初的な問いを提示し続けていた稀有な場所だった。

《香味庵》閉店の知らせを聞いたとき、私はちょうど山形にいた。居ても立っても居られず、店の前にいってみたが、どうにかなるわけではない。モヤモヤだけがずっと心にくすぶっていた……。佐藤監督と出会ったのは、それから数か月後のことだった。聞くと《香味庵》の取材をしているという。なんと無茶なことを！ と思った。私ならば勝算がないと、想いや情熱だけではキャメラを回さない。《香味庵》を映画化して勝ち目はあるのか……。老婆心ながら心配し、会うたびに進捗状況を聞いていた。そして去年、佐藤監督は丹念に取材を重ね、完成にこぎつけた。あっぱれである。ドキュメンタリーはまず記録して、語り継ぐことが重要だ。《香味庵》という場所＝存在がなんだったのか？ 本作を観て、考えてほしい、そして記憶に留めていってほしい。

◎中村高寛/プロフィール

1975年生まれ。映画監督。97年、松竹大船撮影所よりキャリアをスタート、数々のドラマ作品に携わった他、在日中国人監督である李纓に師事し、映画「味」（03年）、「靖国 YASUKUNI」（08年）などの助監督を務める。06年に映画「ヨコハマメリー」で監督デビュー、トロント国際映画祭でワールドプレミア、釜山国際映画祭、バンクーバー国際映画祭などに出品された。また日本では横浜文化賞芸術奨励賞、神奈川文化賞未来賞、文化庁記録映画部門優秀賞など11個の賞を受賞した。17年には11年振りとなる映画第二作「禅と骨」が劇場公開、書籍「ヨコハマメリー かつて白化粧の娼婦がいた」が出版され、反響を呼んだ。