●　カイコものがたり　03

　この時代のお蚕はまだ飛べていたし、自力で動くことも出来た。

とはいえ、養蚕として人間に飼育されて、餌を与えられる環境に慣れ始めていた。わざわざ、餌が与えられる環境から、何処かに餌を探しに行く必要が無い。

　ウェイは、人間に飼われて逃げる事も無いお蚕を見ながら思い、自分の境遇に重ね合わせていた。

　【こんな飼育小屋から逃げて、自由に外を飛び回る事も出来るだろうに】

　【遠い所にも行けるのに、何故、そこで大人しくしている】

『そうか、俺といっしょだ、逃げる気になればこの集落から出ていくことも出来る、でも、逃げたところで寝床どころか一食の飯も用意できない、きっと、すぐに土になってしまう』

　たまに、元気な成虫の蛾が闇夜に飛んでいくさまを見ながら、ウェイはそんな事を考えていた。

　【月夜に飛んでいく蛾は、どうやって生きていくのだろうか】

　【いつか、飢え死にするにしてもどの位遠くまでいけるのだろうか？】

　どうしてそう思ったのか自分にも分からないが、今度の満月の夜に空に飛んでいく行く蛾を追いかけてみようと思いついた。

　どこまで、追いかけられるか、いい考えも無かったが、その衝動は日に日に抑えられなくなるウェイであった。