「地球交響曲第三番に向けて　　故星野道夫に捧ぐ」

「”母なる星地球（ガイア）”は、それ自体が一つの大きな生命体であり、我々人類は、その大きな生命体の一部分として、他のすべての生命体とともに、今、ここに生かされている」

これは地球交響曲「第一番」、「第二番」そして今回完成した「第三番」を貫いて流れる基本コンセプトです。この考えは別に目新しいものではなく、ほんの数百年前までは、世界中のすべての民族、すべての人々が誰でも知っていたことであり、また科学的に検証しても正しいと言える厳粛なる事実です。にもかかわらず、私たちは、この事実を、実生活の中でほとんど実感として感じられなくなってきています。ここに我々の時代の不幸、そして危険が潜んでいます。

　”母なる星地球（ガイア）”の大きな生命の中に活かされている、という事実が実感できなくなってきた理由は大きく分けて二つあると思います。その一つは、もちろん最近の技術文明、物質文明の目覚ましい進歩です。この進歩のおかげで、私たちは、生きることのほとんどすべてを自分たちの力でコントロールできる、と思い始めています。さらに、３５億年という歳月をかけて営まれてきた”母なる星地球（ガイア）”の生命さえ、コントロールできるかのごとき錯覚を抱き始めているのです。

　これは、とても危険な兆候です。

そして、もう一つの大きな理由は、私達に”死”が見えなくなってきた、ということでしょう。私たちが生きているということは、その一瞬一瞬が無数の”死”に依って償われています。食べることひとつ取ってもそうでしょう。私たちは食べ物になってくれる無数の生命の”死”に依って生かされている。しかし、その”死”は現代の日常生活の中ではほとんど見えない。さらに、私たちが今こうして生きている、ということは、百年前、千年前、一万年前に、現実に二人の人間がいて、その人たちが喜びや悲しみ、苦しみを抱きながら必死で生きてひとりの子供を産み育ててくれたからこそ、今、私がこうして生きている今の私たちの”生”は、無限に連続している”生”＝”死”の環の中で、今たまたま、ひととき生かされているのです。しかし、この厳粛なる事実さえ、今の私たちの日常生活の中ではほとんど実感できなくなっています。

”死”は敗北ではない。

”死”は終わりではない。

”死”こそ、生き続けるものの”生”を激励し母なる星地球（ガイア）の大いなる生命に生かされていることへの感謝と喜びを呼び覚ましてくれる一瞬なのです。

　我々の祖先は、様々な「神話」に託してこの厳粛なる事実を、日常生活の中で常にリアルに思い出し続けていました。その「神話」を失ってしまった今、私たちは、21世紀の日常生活に通じる、新たなる神話の構築が必要なのではないでしょうか。

　私たちの生命が、”母なる星地球（ガイア）”の大いなる生命の中に生かされている、という事実は、技術文明、物質文明がこれほどまでに進歩した今でも、何ひとつ変わる事がないからです。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　龍村　仁