生の舞台芸術との出会いの意味するもの

子どもと舞台芸術大博覧会実行委員会
副実行委員長　　森田　勝也

■ 子どもも大人も人間関係が希薄になっている今

「人とはなんだろ？」「人は何のために生きるのだろう？」こんなことを考える機会が子どもたちからなくなってきているように思う。「人間」を学ぶ機会が失われてきているのである。IT機器の発達した今、子どもたちはPC、テレビ、スマホ、アニメ等の言わば仮想社会のなかでしか人間について知るしかない時代になってきた。電車の中で見かける若者のほぼ９割はスマホに向かっている。周りの人など一切意に介せず、まるで周りに人がいないかのように自分だけの世界に埋没している。大学の食堂では「孤食？」のコーナーに人気があり、増設している大学もあるという。
学校でも地域社会でも人間関係が希薄になってきたことも確かだし、余計な人との関わり合いを避ける傾向が社会全体にあるように思う。集うことが苦手、一人が好きという子どもたちも増えてきている。子どもたちは社会的に分断され、個々の子どもたちが浮遊しているかのように思える。それはまた大人社会の合わせ鏡なのかもしれない。

■ 子どもたちに生の舞台芸術を観せる意味

そんな今だからこそ子どもたちに生の舞台芸術を観させたい。本物の舞台芸術文化と本物の人との出会いを子どもたちに体験させたい。それは舞台上での物語の面白さばかりではなく、本気になって汗して頑張って演じている大人がいるということ、そしてその作品を作り上げるために多くの大人たちが関わってこの舞台を創り上げているかを考え、実感してもらいたいからである。今の子どもたちの体験の中に、大人たちが本気になって取り組んでいる姿を見る機会はそうはない。後ろ姿さえ見えない時代なのである。
身近で生の舞台を見るということは、本物の人間が「人が生きることの意味」を本気で演じ、伝えようとする気迫を観て受け取る機会であり、それは子どもたちにとって大切な「人間」を学ぶ機会になるからである。舞台上の架空の物語が、いつしか自分の物語になり、もう一人の人間を体験するのである。

■ 共感・共有の大切さ

そして、できるなら誰かと一緒に観てもらいたいと思う。感動を共有できる人が周りにいてこそ人とのつながりが生まれ、「人間っていいなあ！」と思えるのである。共感・共有があることで、生の舞台芸術を鑑賞することが完結するのだと思う。こんな時代だからこそ共にあそび、共に観ることで信頼できる人間関係の良さを、素晴らしさを体感してほしいと思う。子どもたちの健全な心の成長のために必要だと思うからである。

感動の後ろには感動を創る大人たちがいる。
そして、それを観て、感じて、人として生きる歓びが子どもたちの心を育んでいくのである。