
支援総額
目標金額 1,100,000円
- 支援者
- 0人
- 募集終了日
- 2021年5月10日
下の抜粋。その11。『陽大の出生』
―俺は爺さんの語りを聞く度に不思議な気分に包まれた。
爺さんにはルーツを記憶している誇りが在った。
高祖父の榊長左衛門と俺は血が繋がっていない。
爺さんとも繋がっていない。
榊家のルーツは俺のルーツでは無い。
俺は俺のルーツを知らない。
知らなくとも今は榊家の長男として大切に育てられている。
榊家のルーツに接する度に俺のルーツを知りたくなる。
それは叶わない。
俺にはルーツと結びついたIdentityが欠落している。
だからどうだって言うんだ。
過去よりも今だ。
今が無ければ未来は無い。
ルーツを知らなくても生きてゆける。
けれど何かが欠落している。
その欠落が妙な不思議感になる。
こんな感覚を誰にも伝えられない。
爺さんにも婆ちゃんにも父さんにも母さんにも。
みんなを不安にさせてしまう。
俺は吉岡園長を訪ねた。
「今日来たことは家族に内緒にして欲しい。俺が捨て子だったと小っちゃい頃
から気づいていた。両親を指導員の先生や職員に尋ねても誰も知らないからだ。園長先生が俺と養子縁組してくれて俺には戸籍ができた。そして今は榊家の長男になった。何ひとつ不自由が無い生活を送っている。大切にされている。時として捨て子だったことを忘れてしまう。でも時折何かの拍子で思い出す。だから今日園長先生に会いに来た。俺は何処でどのようにして捨てられていたのか…。捨てた両親は誰なのか…。それを知りたい。教えて下さい」
「家族に内緒は心得た。陽大が何時か訪ねて来ると思っていた。尤もな疑問だ。陽大にとっての過去は小三までとそれ以降でしかない。問題は小三以前だ。それも出生の時だ。両親の存在は本当に誰も知らないんだ。陽大はこの施設の玄関に置かれていたんだ。クリスマスイヴの夜に置かれていた。母親が書き残したと思われるメモが籠の中に在った。『この子をお願いします。生後二週間です。私は会津の生まれです。申し訳ありません』。私は両親を秘かに探した。施設には沢山の大人が居る。陽大をしっかりと育てようと大人たちは誓った。今と違って監視カメラが備えられていなかった時代だ。映像に記録されているものは何ひとつ無い。手掛かりは会津だけ。これだけでは追跡できない。母子手帳の控え。出生届も職権で調べた。会津出身者の戸籍も可能な限り当たった。しかし何も出て来なかった。せめて名前だけでも判明していれば…。実は私も会津出身者の子孫。君のお母さんは私が会津出身者と知っていたと思う。それを頼りにした。私を会津出身者と知っている知人縁者友人を片っ端に当った。その中に出産した女性は居なかった。そして会津の縁が在って榊さんと出会った。私が陽大に伝えられるのはこれがすべてなんだ」
「そうですか。クリスマスイヴの夜だったんだ。俺の誕生日は十二月一〇日。
それが不思議だった。それが今日分かった。園長先生。ありがとうございます。来て良かった。爺さんが榊家のルーツを俺に語った意味も分かりました。俺も会津と無縁では無かったんだ。骨を折ってくれたんですね。感謝します」
「榊家とは古い付き合いなんだ。私は山鼻屯田兵の四代目。もう一四〇年以上
の付き合いだ。安心して榊さんにお任せできるから…」
「婆ちゃんから…過去を恨んだり、呪ったりしてはイケナイ。恨んだり、呪っ
たりしたなら、それだけの人生しか送れない。前を向けなくなる…と言われて
います。俺はそれを座右の銘に据えています。だから俺は大丈夫」―
これは教科書への書き込みでは無い。陽大の評伝だ。陽大の文は流れが良い。淀みがないから読み易い。読み易いと内容に惹きつけられる。でもこの書き込みは読み手を意識していない。自分だけに自分に向けて書いている。
書き出しの西南戦争から何と云う展開。
…『強烈』を超えてしまった。想定していなかった『圧巻』…
リターン
5,000円

応援してくれた方には直ちに感謝のメールを送らせてもらいます。
『どうせ死ぬなら恋してから(上)(下)』の書籍を郵送します。
- 申込数
- 0
- 在庫数
- 200
- 発送完了予定月
- 2021年7月
10,000円

10000円の方へ。御礼と感謝のメールを直ちに送らせてもらいます。
『どうせ死ぬなら恋してから』の書籍を郵送します。それと拙著の『未来探検隊』(圧縮ワープロ原稿)を添付メールで送ります。
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- 2021年7月
5,000円

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10,000円

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