支援総額
目標金額 610,000円
- 支援者
- 61人
- 募集終了日
- 2015年11月27日
「落ち葉しぐれ」三浦洸一
ニット帽の彼が寝泊まりしていた宮古市内の小学校体育館では、他にも大勢の忘れがたい人々と出会いました。体育館の真ん中にあった食事スペース(長机を何個も並べてある場所)でいつも我々の到着を待ち、何冊も持ち込んだ楽譜をじっくりと吟味してリクエストをくれた60代の女性は、思い出の曲を聞くと
「奈良光枝という懐メロ歌手が歌った“赤い靴のタンゴ”かしらね。私は釜石市の出身なんだけど、50年前に小佐野という集落で小さなリサイタルがあって、観に行った思い出があるのよ」
と教えてくれました。また、弟子Yを気に入って毎回ふらりと開始30分くらいのタイミングで現れて、都はるみの曲をいくつもリクエストする男性もいました。彼は私が弾く都はるみは
「そんなんじゃないよ、だめだめ」
と気に入らない様子で、きびすを返してすぐに弟子Yに同じ曲を歌わせて
「なんだい、師匠より上手じゃねえか。頑張れよ」
などと励ましていきました。「千年の古都」という歌がお気に入りで、私も多少いじけながら何度も練習したものです。
以前にも書きましたが、この避難所にいた大多数の人は土曜日の昼間は自宅の片付けに帰宅したり、仕事で出かけていたので、音楽療法のある時間帯に残っているのは高齢者かニット帽の男性のように何らかの障害を抱えている人、どこにも行き場のない孤独な人ばかりでした。閑散とした体育館のだだっ広い空間で、片隅に集まりながら少人数でいつも歌を歌っていました。
毎回別の避難所を渡り歩いていた山田町とは違い、毎週お邪魔していたので、体育館に残っている人たちとは顔見知りになって、津波前にはどこに住んで何をしていたのか、震災当日はどこで被災したのか‥などの話を聞く機会がありました。
6月最初の訪問日、それまで音楽療法の様子をすぐ横の居住スペースで聞いていたご夫婦が、お見舞いに来た遠方からの友人が差し入れてくれたから、と和菓子を差し入れてくれました。避難所では食べ物を受け取らないようにしていた我々でしたが、せっかくのお申し出だったので、ひとつずつ頂戴することにしました。
「お兄さん、若いのに随分と古い歌も知ってるね。感心しながら見てたよ」
ほんのりと江戸っ子っぽいしゃべり方の男性からそう言われて、音楽療法士という仕事をしていて、精神科の病院や高齢者施設で懐メロを良く使っていることなどを説明しました。すると
「俺もね、8年前までは関東の盛り場でギターの流しをしていたんだ。流しって知っているかな?」
と言われました。私はそれを聞いて、俄然彼に興味が出てきました。聞けば、彼のレパートリーは3000曲以上もあり、営業時は3曲100円で飲み屋を渡り歩いていた‥という面白いエピソードを披露してもらいました。流しのプロである彼に、何が一番得意な歌なのかを聞くと
「落葉しぐれってのが、俺のテーマソングみたいなもんかな」
と答えてくれました。20年以上も音楽療法士の仕事をしたのに、一度も歌ったことの無い歌でした。歌詞を見ると、確かにこれはギターの流しをしている人が題材になっている内容でした。今でもギターで歌えますか?と聞くと、彼は苦笑いしながら片手を前に差し出しました。
「数年前に病気しちゃって、片手動かなくなっちゃったんだよ。今、近所の病院でリハビリ中。それでも自分の店(居酒屋)を頑張って切り盛りしていたのに、今度のこの津波で店やられちゃった。ふんだり蹴ったりだな」
そう言って彼は奥さんと一緒に外へ出かけていきました。私は活動を終えて片付けをしている間、家にある使っていないアコースティックギターの存在を思い出しました。翌週、同じ時間帯に体育館を訪れると、幸い流しの男性がいて、私を見つけると親しげに挨拶をしてくれました。
「こんにちは、今日はギターを持ってきました。良かったらこれ、弾きませんか」
私は剥き出しのギターを彼に渡し、テーブルのそばにあった椅子に一緒に座りました。彼は懐かしそうにチューニングをすると、手慣れた手つきでパラパラといくつか演歌を弾いてくれました。
「安物で恥ずかしいんですけど」
「いい音するね、これは良いギターだ」
一通り引き終わって彼が私にギターを返そうとしたので、私は首を振り
「差し上げようと思って持ってきたんです、良かったら受け取って下さい」
と言いました。彼はびっくりした表情で一瞬言葉を失い、すぐ横にいた奥さんと顔を向きあわせました。
「もらえないよ、悪いもの。兄さん、楽器は大切にしなくちゃ」
「このギター、大昔に練習用で買ったんですが、私は仕事でキーボードしか使わないんです。ずっとしまってあって、持ち腐れだったんです。弾いてくれる人に持ってもらった方が、ギターも幸せだと思うんですよ」
隣にいた奥さんが、笑顔で
「良かったじゃない、お父さん。リハビリにもなるわよ、ありがたくいただいたら?」
と言ってくださり、しばらくの沈黙のあと彼はギターを居住スペースに持って行って、大事そうにしまってくれました。そしてうっすら涙を浮かべながら
「音楽をやってる人ってのは、あたたかいね‥ありがとう」
そうつぶやきました。
この流しの男性とは、数カ月後に宮古市内のとある仮設住宅で再開しました。彼は仮設に住みながら血の滲むような努力をして、再び自分の店を再開させ、私たちを食事に招待してくれたのでした。いずれこの話もどこかで披露できたらな、と思います。
リターン
3,000円

①お礼状(ポストカード)
- 申込数
- 34
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2016年2月
10,000円

①お礼状(ポストカード)
②写真集1冊
③当法人ホームページへお名前の記載
(掲載を希望されない場合はご連絡下さい)
- 申込数
- 20
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2016年2月
3,000円

①お礼状(ポストカード)
- 申込数
- 34
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2016年2月
10,000円

①お礼状(ポストカード)
②写真集1冊
③当法人ホームページへお名前の記載
(掲載を希望されない場合はご連絡下さい)
- 申込数
- 20
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2016年2月

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