羊羹を考える-「陰翳礼賛」から

今回のライトアップイベント「陰翳と瞑想の世界」にふさわしいお菓子を探して──
辿り着いたのは、奈良・樫舎（かしや）さんの葛焼です。

谷崎潤一郎は『陰翳礼讃』の中でこう語っています。

「羊羹なども真昼の電燈の下で見ると、何ということもないただの黒い塊でしかないが、闇の底に沈んだあの色には、何かしら言いようのない味わいがある。」

光の少ない空間だからこそ立ち現れる美しさ、そしてそこに感じられる静謐な豊かさ。葛焼の姿と味わいもまた、それと同じように、光の陰にこそ際立つものだと感じました。

羊羹と同じように深い黒を湛えながらも、葛焼には、時間とともに口中で幾重にも広がっていく複雑な味わいがあります。やがてその移ろいに身をまかせるように、自身の輪郭までもが闇と同化していくような、不思議な感覚を覚えました。

奈良・樫舎さんは、素材を極限まで生かす和菓子づくりに定評のある名店。葛、寒天、砂糖、豆──そのどれもが、しっかりとした存在感を持ちながらも、決して主張しすぎることのない調和を見せています。

この一品の持つ幽玄こそ、「陰翳と瞑想の世界」を体現するにふさわしいと確信しています。

イベント当日は、こちらの葛焼をお抹茶とともに喫茶にてご提供いたします。