支援総額
目標金額 100,000,000円
- 支援者
- 56,584人
- 募集終了日
- 2023年11月5日
かはくの偏愛研究室 番外編|03 動物研究部・神保先生が綴る小さなガへの愛
毎週木曜19:00〜19:30に放送中の、クラウドファンディング特別企画「かはくの偏愛研究室」。
かはくに所属するさまざまな分野の研究者が登場し、かはくに収蔵されている約500万点のコレクションの中から、自身の「推し」をご紹介。資料への愛を語るYouTube番組です。
今回はその番外編。配信ではなく、研究者自身が、推しコレクションへの愛を綴ります。
神保宇嗣(動物研究部・標本資料センター)

profile
神保宇嗣(じんぼ・うつぎ)
2012年に国立科学博物館動物研究部に入り、2021年より標本資料センターにも所属。専門はチョウ・ガ類、特に小型ガ類の分類学と、生物多様性情報学。データベースの構築にも力を入れており、サイエンスミュージアムネットの活動も主導。
小さな流れ星
夜の空にかがやく流れ星、というと、なんともロマンチックな響きがありますが、今回紹介するコレクションは、私が流れ星という名前をつけた小さなガ、ナガレボシハマキのホロタイプ標本です。ガはとても種類数が多い昆虫のなかまのひとつで、日本だけで6,000種以上が知られています。とくに小さなガは種類が多い上に分類学的な研究も不十分で、日本からも毎年のように新種や日本新記録種が報告されているのです。そういった中で、私が2006年に新種として名前をつけたのがナガレボシハマキです。
ナガレボシハマキのホロタイプ標本
ナガレボシハマキは、ハマキガ科という、日本で800種以上が知られる大きなグループに含まれます。ハマキガの幼虫は、絹糸を使いつつ、葉っぱを巻いたり重ねてつづったりするものが多く、中には果樹やチャノキなどの害虫もいます。ナガレボシハマキの幼虫はわかっていませんが、これに近縁なタテスジハマキやクロタテスジハマキといった種の幼虫は、モミなどの針葉樹を食べ、北海道ではエゾマツやトドマツの植林で害虫となることがあります。ナガレボシハマキのように、茶色の地色に放射状に銀色や黒のすじからなる斑紋は、地味な方ですが特徴的です。また、なぜか幼虫が針葉樹を食べる種類に同じような斑紋のものが多く、ハマキガのなかまでも、進化的には遠縁なのに同じような斑紋を持っている針葉樹食の種がいくつもいます。その理由はまだわかっていません。
ホロタイプとは、ある生物の種を定義するために指定される唯一の標本です。そのため、博物館においては学問的に最も重要な標本といえます。国立科学博物館には多数のホロタイプ標本が保管されており、チョウやガだけでもその数は800点以上になります。また、写真をご覧になった方の中には、紹介する標本の腹部がないことに気づかれたかもしれません。昆虫のなかまでは、種の識別点として生殖器の形を重要視するため、ガの場合には腹部をはずして解剖し、生殖器を観察します。つまり、この標本の腹部は無くなったではなく、解剖して観察したために外されているのです。観察した生殖器などは、プレパラートに封入し、番号をつけて別に保存されています。
今回、面白い斑紋を持つ小さいガの世界をお見せしたかったこと、学生の頃にあれこれと調べて新種として記載した思い出深い標本だったことから、このコレクションをピックアップしました。ナガレボシハマキの前翅の長さは1センチ強ですが、最も小さいガでは前翅は2mmくらいしかありません。そのような小さい種の多くが、拡大してみると多様でしばしば派手な斑紋を持っているのですが、なかなか気づかれることがありませんでした。デジタルカメラやスマートフォンで小さな生き物をきれいに撮影できるようになったり、詳しい図鑑が出たりする中で、小さいガにも少しずつスポットライトが当たることが多くなってきているように感じています。
名前のどんでん返し
まだ学生の頃の話です。もともとは家の近くのガを探すことから始まったガの調査研究でしたが、そのうち、日本のあちこちに採集に行くことも増えてきました。その中で気になってきたのが、本州の亜高山帯に生息している小さいガのなかまです。本州中部の山岳地帯では、標高2,000mあたりになると、オオシラビソやコメツガなどの針葉樹を中心とした林が広がっており、そこでしかみられない生物がたくさんいます。亜高山帯では、以前からガの調査は多くなされていたのですが、小さいガを丹念に採集して調べてみると、まだ名前のついていない種がいくつも見つかったり、ほとんど採集例がなく幻のような種を再発見できたりと、大きな発見がたくさんでてきたのです。
ナガレボシハマキは、そんな中で気になっていた種の一つでした。実はこの種類、以前からクロタテスジハマキという名前で、山地にいる種類として記載された論文や図鑑に載っており、私は図鑑に従ってクロタテスジハマキだと思いこんでいたのです。一方私は、クロタテスジハマキによく似ているタテスジハマキをあちこちで採集したところ、本州の低い山の個体と亜高山帯など比較的高い標高で採集された個体で、斑紋だけでなく交尾器の形にも差があることに気づきました。そこで、この亜高山のタテスジハマキを新種として記載しようと、こまかい研究を始めたのです。その結果、クロタテスジハマキの新種記載論文に、ナガレボシハマキと亜高山のタテスジハマキが混じっていたこと、クロタテスジハマキの種の基準となるホロタイプ標本は、私が新種だと思っていた亜高山のタテスジハマキの方だったことが判明したのです。前に書いたように、生物に学名をつける際には、ホロタイプ標本が唯一の定義であります。この結果、亜高山のタテスジハマキがクロタテスジハマキと判明し、それまでクロタテスジハマキと呼ばれていた種の方を新種ナガレボシハマキとして記載することになりました。
クロタテスジハマキの標本
どんでん返しのポイントになったのは、クロタテスジハマキのホロタイプ標本の採集地が北海道だったことでした。実は、ナガレボシハマキは北海道では見つかっていないのです。このことから、前提がおかしいのではないか、と思ったことで、この結論にたどり着くことができました。ナガレボシハマキはその後、本州中部の亜高山帯を中心に標高1,000m程度の山地まで分布することがわかってきましたが、北海道にはやはり分布しないようです。なぜ北海道にはいないのか、どこまで分布するのか、どんな生態をしているのかなど、これから調べないといけないことが残っています。もしどこかでこんな小さな「流れ星」を見ることができたら、教えてもらえれば嬉しいです。
「コレクションとは無限の情報が詰まった宝箱である」
科博をはじめとする博物館には、たくさんの標本や資料があり、コレクションを構成しています。コレクションの中の一部の標本は、展示などで皆さんが直接目にする機会がありますが、大半の標本は収蔵庫に保管され、研究などに使われるまで保管されます。とくに、チョウやガの標本は、光により標本の色があせてしまうことがよくあり、照明などを工夫してもなかなか防ぎきれません。今回、ガのホロタイプ標本を紹介しましたが、これを直接展示として長期間みなさんにお見せすることはなかなか難しいでしょう。
このように直接見られない収蔵庫の標本ですが、みなさんがその情報に触れる方法として、インターネットから調べる方法があります。標本や資料のデータベース、最近ではデジタルアーカイブともいわれるものです。科博では「標本・資料統合データベース」などのデータベース・デジタルアーカイブを公開しており、どこで採集されたどんな標本が収蔵されているのかを調べることができ、一部の標本についてはその画像を見ることもできます。チョウやガのホロタイプ標本については、多くが「標本・資料統合データベース」で写真つきで見ることができます。さらに、科博では、標本資料センターが中心となり、日本各地の博物館などに収蔵されている生物・化石標本の情報を集め、まとめて検索できるようにした「サイエンスミュージアムネット」も運営しています。検索できるのは「どのような種が、いつ、どこで採集されたか」という標本のラベル情報で、登録数は今年度になって700万点を超えました。これだけたくさんの標本情報が集まると、どういうところに生息しているのかを推定するなど、情報を解析することでも新たな知見を得ることもできるようになるのです。


標本から得られる情報は、ラベルの情報だけではありません。様々な技術進歩により、これまでになかった情報を得ることが可能になってきています。形の観察を例にとると、肉眼から光学顕微鏡、電子顕微鏡と、より細かいところの観察が可能になり、写真もより高精細なものを撮影できるようになりました。さらに、3Dスキャンなどにより立体構造のままで形を記録したり、マイクロCTスキャンなどにより標本を壊さずに内部の様子をみたり、以前は不可能だった古い標本のDNA塩基配列を解析したりと、それまでになかった色々な情報を得ることが可能になってきています。その際に、新しい技術で新しい情報を得ることができるのは、技術だけでなくそこにコレクションがあるからだ、ということを忘れてはいけません。コレクションは「無限の情報が詰まった宝箱」であり、収蔵庫で長年保存されつつ、新しい技術で新しい情報を引き出され、新しい発見に至る時を待っているのです。
リターン
15,000円+システム利用料

【一押し!】【寄付控除あり】 かはくオリジナル図鑑
※本コースも、「寄付控除あり」に変更いたしました(10/20変更)
●御礼メール
●かはくオリジナル図鑑
当館の全研究者が、自身の「最推し」標本を選び、解説したものを1冊にまとめた本クラウドファンディングのオリジナル「図鑑」。
●寄付金領収証
--------
※図鑑は、130ページ前後になる予定です。画像は、そのうちの一部(恐竜の専門家・真鍋副館長の担当ページ)のイメージです。最終的なデザイン・内容は変更となる可能性もございます。
※寄付金領収証のみ、2023年12月中にお送り予定です。
>>詳細は「活動報告」欄にも紹介記事がございます。
- 申込数
- 39,306
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2024年3月
5,000円+システム利用料

【オリジナルグッズ】【寄付控除あり】 トートバッグ
※本コースも、「寄付控除あり」に変更いたしました(10/20変更)
●御礼メール
●トートバッグ
研究者が日々の研究で使用した「研究ノート」の一部をデザインとした、本クラウドファンディングのオリジナル「トートバック(全5種類)」。
●寄付金領収証
--------
<デザイン>
以下の5種から1つ【ランダムで】お届けいたします。
■モグラの歯の変異原図
■貝のスケッチ
■微細藻スケッチ
■ボーリングコアのスケッチ
■太陽黒点スケッチ
※画像は、5種のうち3種のイメージです。デザインや形状などは変更となる可能性もあります。
※寄付金領収証のみ、2023年12月中にお送り予定です。
>>詳細は「活動報告」欄にも紹介記事がございます。
- 申込数
- 15,665
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2024年3月
15,000円+システム利用料

【一押し!】【寄付控除あり】 かはくオリジナル図鑑
※本コースも、「寄付控除あり」に変更いたしました(10/20変更)
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当館の全研究者が、自身の「最推し」標本を選び、解説したものを1冊にまとめた本クラウドファンディングのオリジナル「図鑑」。
●寄付金領収証
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※図鑑は、130ページ前後になる予定です。画像は、そのうちの一部(恐竜の専門家・真鍋副館長の担当ページ)のイメージです。最終的なデザイン・内容は変更となる可能性もございます。
※寄付金領収証のみ、2023年12月中にお送り予定です。
>>詳細は「活動報告」欄にも紹介記事がございます。
- 申込数
- 39,306
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2024年3月
5,000円+システム利用料

【オリジナルグッズ】【寄付控除あり】 トートバッグ
※本コースも、「寄付控除あり」に変更いたしました(10/20変更)
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研究者が日々の研究で使用した「研究ノート」の一部をデザインとした、本クラウドファンディングのオリジナル「トートバック(全5種類)」。
●寄付金領収証
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以下の5種から1つ【ランダムで】お届けいたします。
■モグラの歯の変異原図
■貝のスケッチ
■微細藻スケッチ
■ボーリングコアのスケッチ
■太陽黒点スケッチ
※画像は、5種のうち3種のイメージです。デザインや形状などは変更となる可能性もあります。
※寄付金領収証のみ、2023年12月中にお送り予定です。
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- 申込数
- 15,665
- 在庫数
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- 発送完了予定月
- 2024年3月

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