東京医科大学入学試験における女性受験生差別に対する損害賠償請求訴訟に関する最高裁判所の決定について　

2024（令和６）年10月17日

東京医科大学入学試験における女性受験生差別に対する損害賠償請求訴訟に関する最高裁判所の決定について　

医学部入試における女性差別対策弁護団

2024（令和6）年10月10日、最高裁判所は、東京医科大学の入学試験における女性受験生への不当な差別を訴えた損害賠償請求訴訟に関し、原告である女性受験生の上告受理申立てを却下する決定をしました（最高裁令和5年（受）第1962号）。

この決定により、原告側の訴えについては二審・東京高裁判決（東京高裁令和4年（ネ）第4774号）が確定することになりました。

 1　本件訴訟の意義

本件訴訟は、医学部入試において、女性受験生に対し、女性であることを理由として一律に不利益な得点操作を行うという不公正な扱いについて、大学側の法的責任を追及するものであり、教育現場における性差別を是正するという重要な意義と役割を有するものでした。

尊厳を傷つけられたなか、後に続く女性受験生に対して絶対にこのようなことが許されてはならないと、司法の場で大学側の法的責任追及を求めた原告たちの勇気は、日本社会に根深く存在する「女性差別」の不当性を明らかにし、解消・改善を求める大きな一歩であったと確信しています。

2　最高裁判所の決定に対する見解

最高裁判所による上告受理申立ての却下は、2019（平成31）年の提訴以来、実に5年にわたって戦ってきた原告の皆様にとって、大きな失望をもたらすものであり、決して満足のいく結果ではないと思います。 

弁護団としても、女性受験生に対する不当な扱いが「性別を理由とした差別である」と最高裁判所が正面から判断しなかったことは、「人権の砦」としての役割を放棄するに等しいものであり、非常に残念な結果であると言わざるを得ません。 

しかし、二審東京高裁においては、女性受験生の得点を男子受験生より劣位におく得点操作につき、性別による不合理な差別的取扱いを禁止した憲法や教育基本法の趣旨に反する違法な不法行為と認め、その合否に関わらず慰謝料（受験慰謝料）が認められました（ただし、その額は「20万円」と低額であり、性別によって差別された受験生を慰謝するに足るものとは到底言えません）。

そして、得点操作により不合格となった女性受験生に対し、「不合格慰謝料」として300万円が認められました。このような慰謝料が認められたことは、性差別の違法性を争った訴訟としては従来の裁判所の判断例からみると画期的なものであり、この判断が確定したことの意義は大きいといえます。

最高裁判所によるさらにふみこんだ判断を得ることはできなかったものの、大学が長年にわたり行なってきた医学部入学試験における女性差別の違法性・不当性を争い、裁判所の公正な判断を求めたこと自体が、社会に大きなインパクトを与えるものであり、その価値は何ら揺るぎないものです。 

3　今後に向けて

本件訴訟は終了しましたが、社会においては今なお性差別を含めて様々な差別が横行しています。差別をなくし、平等な社会を実現するためには、私たち一人ひとりが声を上げ、「異議申し立て」をしていくことが重要です。

医学部の入学試験において差別的な取扱いが発覚したことを受けて、文部科学省は、2021年度入試から各大学の男女別の合格率を公表するようになり、2024年度入試の女子の受験者数は2019年度以降では過去最多となりました。

私たちは、たとえ小さな一歩であっても、社会を「公正・公平」にしていくための確かな原動力になると信じています。

4　感謝の意

最後に、本件訴訟を共に戦った原告である受験生の皆様、ご家族の方々、そして多くの支援者の皆様に、心から感謝申し上げます。

皆様の勇気ある行動が、社会全体に大きな影響を与え、今後の変化を促す力となりました。本当にありがとうございました。

以上