公衆衛生と保健所の歴史

「人類の歴史は感染症との闘い」の歴史といわれています。古代ギリシャの都市国家アテネが衰退した背景には疾病の蔓延があったといわれ、東ローマ帝国皇帝・ユスティニアヌスの治世にはペストが大流行し、それが引き金となって東ローマ帝国は衰退したと言われています。また、フランス皇帝ナポレオンのロシア遠征では赤痢やチフスが拡がり、第一次世界大戦中のインフルエンザ（俗称スペインかぜ）は２０世紀最悪のパンデミックと言われ、世界人口の２５％から３０％の人がかかり、２０００万人以上の死者数を出したと言われています。

 

 

また、近年ではアフリカで発見され、その後も度々脅威をふるっているエボラ出血熱、重症急性呼吸器症候群（ＳＡＲＳ）、中東呼吸器症候群（ＭＡＲＳ）、そして新型インフルエンザなど、過去から現代にいたるまで、私たちは数えきれない感染症との闘いがあり、今もその途上です。

特に、近年急速に進む地球環境の破壊や社会機構の変化、グローバル化による世界中との往来が自由になるなどで、新興や再興感染症の新たな恐怖はこれまで以上に深刻で、今回の新型コロナウィルスもその一つです。

そこで注目されるのが、感染拡大を抑え、人々の命や生活をいかに守るかという「公衆衛生」のありかたです。

我が国の公衆衛生の歴史は、鎖国を解いた明治時代、開国によって外国からもたらされた天然痘、性病、コレラ、ペストへの流行対策に始まりましたが、近代的な医療の確立されない中、その中心は清潔な水の確保と患者の隔離でした。やがて国を挙げての富国強兵、殖産興業への歩みの中で、劣悪な職場環境や長時間労働などによりその礎とされてきた紡績工場や製紙工場の女子労働者や兵士の間に結核が蔓延。結核は国を亡ぼす「亡国病」として恐れられてきました。

こうした結核の予防や、国民体力の向上、衛生思想の涵養、栄養の改善などを図る公衆衛生機関としてつくられたのが保健所で、1937年に、人口10万～12,3万人を標準に沖縄を除く全都道府県に設置されました。

そして、その最前線で活躍したのが「保健師」です。

 

■保健所機能の低下　1992年をピークに減少に転じた保健所と保健所保健師

 

しかし、１９６０年代までは全国に８００か所の保健所が維持・増加傾向にありましたが、１９９２年の８５２か所をピークに保健所は減少に転じ、現在は半分近くの４６９か所。常勤職員も１９９５年度の３４０００人から約６０００人（平成１７年度）も少なくなりました。

新型コロナウィルス感染症は指定感染症で、感染症法２類相当とされ、保健所での対応も感染症法に基づいておこなわれます。

更に、今回の新型コロナウィルス感染症では、従来でも手が足りないところに、ＰＣＲ行政検査の入り口としての「帰国者・接触者相談センター」の機能が保健所に新たに加えられたことで、保健所の業務が切迫し、目詰まり状態が日常化している状態が続いています。