【制作秘話公開】両面立体刺繍で紡ぐ、三つの物語をまとうオートクチュールドレス

1996年、リウマチを発症し、強い痛みを抑えるためにやむなく大量のステロイドを服用。2年後にはムーンフェイスとなり、激しい副作用と全身の痛みに苦しむ日々が続きました。

逃げ場のない日常の中で、「せっかく独自に考案した両面立体刺繍の技法があるのだから、美しいウエディングドレスを作ろう」と決意。鉛筆すら持つ事ができなかったので、「ここから飛び立ちたい」という思いから羽の胸飾りが頭に浮かび、それに合わせてドレス全体の形を360度イメージ。カトレアをモチーフにしたブーケの図案は線画だけ描き、少しずつ、一年かけて仕上げました。

完成した作品は、1998年「ユザワヤ創作大賞展」で金賞を受賞。ムーンフェイスのまま壇上に立つことに迷いもありましたが、「この姿も勲章だ」と自分に言い聞かせ、誇りを胸に舞台に立ちました。

羽のウエディングドレス、花のお色直しドレス、そしてパーティードレスを1年の歳月をかけて、一つひとつのパーツに想いを込めて制作。ベースとなるカトレア刺繍のキャミソールドレスに、スカートやベール、ショールなどのパーツを自由に取り付け・取り外しできる構造により、挙式からお色直し、パーティーまで、シーンに応じた装いの変化を優雅にお楽しみいただけます。

1着で、3通りの表情をまとうことができる、特別なドレスです。

① 羽のウエディングドレス

カトレアをあしらったキャミソールタイプのドレスをベースに、タイトなロングスカート、プリーツ加工の巻きスカート、腰から背中に流れるベールを重ねた構成。

胸元には、独自の両面立体刺繍技法で一枚一枚羽を刺し、美しい胸飾りを添えています。

ブーケには、独自のワイヤー技術を用い、同じ両面立体刺繍技法で仕上げたカトレアの花々を立体的に組み上げ、どの角度から見ても美しい、完全立体のブーケに仕立てました。

② 花のお色直しドレス

ベースのキャミソールタイプのドレスに、金茶のタイトなロングスカート、特別なプリーツ加工を施した布を刺繍し、身体に巻き付けるように仕立てました。色合いの異なる金茶のカトレアをすべて両面立体刺繍で一輪ずつブローチとして制作し、全身に添えることで、まるで花束をまとうような華やかなドレスに仕上げています。

③ パーティードレス

ベースのカトレアをあしらったキャミソールタイプのドレスにワッシャー加工のショールを羽織り、お色直し用のカトレアブローチを添えることで、式後のパーティーにもふさわしい華やかな装いへと変化します。

 この作品は、作品集にも掲載しており、細部まで立体刺繍をご覧いただけます。

ぜひ、手に取ってご覧いただければ幸いです。