サルのつぶやき

この山（金華山のこと）は全部見て回ったけど周りは全部海だぜ。言ってみれば海に浮かぶ猿山だな。

まあ、サル以外にも俺たちに似て二本足で歩いてるヒトとかいう生き物がほかにもいるけど、あれは変なもん着て動作がのろいから相手にしてもつまらない。
あとはうるさいカラスと鹿ぐらいだな、棲んでいるのは。

陸地がつながってりゃ、山の一つや二つ越えて温泉見つけて浸かったり、川の魚を手づかみで捕まえて食ったり、面白いこといろいろできるってカラスに聞いたぜ。

あいつら羽が生えてるから色々見たり聞いたりしたこと得意そうに話してくれるけど、そのあとに必ず
「やーい、お前たちは動物園とおんなじ猿山のサルじゃないんカー。悔しくないんカー、カー。」
ってわめきやがる。嫌な奴らだ。

つまらないから、鹿を相手に遊ぶんだ。あいつら体がでかいけど、俺たちみたいにすばしっこくないし、特に春に角を落とした若い奴はからかうにはもってこいだ。

だけど、そうやって遊んでると、決まって近くにヒトがいるのに気付いた。
嬉しそうに何かを覗いてこっちを見てる。観客がいると張り切るじゃないか。
あ、またあの人がいる、ってわかると鹿にちょっかい出してやるんだ。
そうやってあの人に喜んでもらえると楽しくって、この猿山もまんざらじゃないなって思えるんだよ。
誰かがあの人にのと「ミカミさん」って呼んでたな。
また会えるかな？

記：益田文和