ゾウたちが続々と戻ってきた! 訪問者回復までもうひと踏ん張り
ゾウの楽園は健在でした
〜 2025年年明けのロベケ国立公園 〜
いつも大変お世話になっております。UAPACAA国際保全パートナーズの岡安です。みなさま、立春を過ぎても厳しい寒さが続いておりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
年末年始のお休みに、コロナのパンデミックで実施できなかった、2019年の初めてのクラウドファンディングのリターン『ロベケ国立公園現地ご案内』のため、カメルーンに行ってきました。本当は2020年5月のゴールデンウィークに実施する予定で、1月末にロベケにランドクルーザーを納車してすぐ、現地と受け入れの調整を開始していたのですが…。瞬く間に欧米でコロナの被害が拡大すると、カメルーンも3月中旬には国境を封鎖。国内移動も制限がかかるようになり、まもなく岡安も日本へ強制退避となりました。
その長年の宿題を、ようやく果たすことができたのです!
もちろん、昨年皆さまに大きなご支援をいただいた保護活動の進捗確認が最重要課題で、協働先の国立公園当局やWWF(世界自然保護基金)ロベケプロジェクトの仲間たちと、次に必要なステップを協議することも大切な目的でした!!とはいえ…かれこれ30年以上、アフリカも中部のジャングルで過ごしてきた岡安にとっては、暑からず寒からずのカメルーンは絶好の避寒地。寒い日本を経ち極寒のヨーロッパを経由して、首都ヤウンデの空港に降り立つと、自然と身体が潤びていく感覚に生き返りました。
今回は半年ぶりのロベケでしたが、前回と違い大乾季の真っ最中。例年より1ヶ月も早く、11月からまったく雨が降っていないもうもうたる砂埃の煙幕の中、ロベケに向けてUAPACAA号で、片道1泊2日がかりの旅に出発しました。
【クラウドファンディングによる自然保護活動】
UAPACAAパートナーズは2018年6月の設立からこの方、カメルーン・ロベケ国立公園の自然保護活動のために、2019年、2021年、2022年、そして2024年と、READYFORのクラウドファンディングで皆さまからまとまったご寄付をいただいてきました。そのおかげで、活動の柱として進めていた、自然保護と地元住民の暮らしを両立させる『エコツーリズム振興』にとって死活問題となった、コロナのパンデミックにもかかわらず現場支援を続けて来ることができました。改めて感謝申し上げます。
その世界的な大混乱からわずか2年で、平穏な生活が戻ってきたように見えます。そうはいっても、コロナ禍で受けたダメージは尾を引き、とりわけ海外旅行の様相は大きく変わりました。航空路線の減少と価格の上昇に加え、エコツーリズム業界の主なターゲットであった欧米はコロナ禍で経済状況が悪化。長引くロシアのウクライナ侵攻や、イスラエルによるガザ攻撃の激化とイスラム諸国への威嚇などきな臭い世情も広がり、はたして遠く離れたアフリカ中部のジャングルまで、はるばる訪れてくる人がどれだけいるか?は大きな課題として残ってしまいました。
ロベケ国立公園では2020年に置いていた年間ツアー客数目標400人から、コロナのパンデミック中の2年間の訪問者数は100分の1にまで減少。野生動物の持続可能な利用によって、地域コミュニティ自らが森林生物多様性を護る活動が、機能不全に陥りました。見渡す限り濃い緑が生い茂るアフリカの最奥地が、いかに外の世界とつながっているのか(いないのか)、世界の隅々までダイナミックな人とモノの移動をもたらしてきた、グローバル経済のリスクを目の当たりにしました。
ようやく活動再開の目処がたった2022年末の3回目の募集では、UAPACAAパートナーズは従来の野生動物保護に軸足を戻すことに務めました。詳しくは⇧リンク先をご覧いただければと思いますが、コロナ禍で世界中の人流が止まり、国際密猟団も鳴りを潜めていた特殊事情が解けて、ロベケでは現金収入を求めて象牙の闇取引に加担する村人が出始めたのです。
他方で日本からの支援もコロナ禍で見通しが立たず、活動資金も2022年2月には底を尽き、10年来続いていたポン・カッセのガードポストが無人の廃墟に…。
背水の陣で臨んだクラウドファンディングに支えられて、その年の冬にはレンジャーとゴリラ観察トランゼクトのモニタリング担当の、ポン・カッセ駐在を復活させることができました!
【ゾウの”巣窟”と化したプチ・サバンナ〜ポン・カッセライン】
ポン・カッセのガードポストの再開により、ロベケ国立公園西部を通る伐採道から、公園内に点在するバイ(開けた水草湿地)へ繋がる林道の入り口の守りを固めることができ、密猟のリスクが抑えられるようになりました。ここからバイのモニタリングを継続することで、動物たちの異変や潜在的な脅威(人獣共通感染症など、時に類人猿に致死的なダメージを与え得る疾病の疑いなど)を早期発見・対処することも可能になっています。
2022年末以来、日本のご支援者の皆さまとロベケ国立公園の現場がタグを組んで、この活動が継続されてきた結果…昨年6月の支援期間中の視察では、プチ・サバンナとジャンギのバイのマルミミゾウの状況がさらに目に見えて改善していました! 特にポン・カッセからプチ・サバンナに至るルートに出てくる、マルミミゾウたちの慣れ方と言ったらありません。
こちらが現地視察の様子です!!(©️中村美穂/Miho NAKAMURA 理事による撮影・編集)
UAPACAA理事でありTVディレクターであるプロの同行を恃みに、ロベケの森で最も豊かにフルーツが実る6月を目掛け、約1カ月をかけてジェンベ、プチ・サバンナ、ジャンギ、そしてポン・カッセと取材に回りました。その甲斐あってベストショットを連発。マルミミゾウ、ゴリラ、バッファロー、ヨウムといった象徴的な動物たちの撮影に成功しました。これらの動画は、ロベケ国立公園のエコツアー復興に向けて、さまざまな場面で活用されていく予定です。
- 2022年9月の訪問では、WWFロベケのマネージャー・ロマヌスに聞かされた通り、夜の間にプチ・サバンナにゾウの気配。コロナで人が減って自由に動き回れるようになったおかげ!? それにしても、長年、この地域はポン・カッセ周りでボチボチ気配がある程度だったゾウたちが、ここまで大胆に小さなバイを使うようになっていたとは!
- 2023年9月の訪問では、さらに大胆になったゾウが朝6時半にプチ・サバンナの縁で水浴び。微妙に観えない薮の中、という安心感もあったかも知れませんが、以前よりもゾウの観察機会が増えているという、現地スタッフの証言が確かめられました。ロベケへの年間訪問者数は、コロナの2年間4人から1年で60人へと復調にあったにもかかわらず、ゾウたちの態度は変わらなかったのです。
- そして2024年6月は…上の映像通り、なんと昼の日なかにマルミミゾウが水を飲みに出てきました。ズシズシとエレファントグラスを踏みしだき、観察台の目と鼻の先に陣取ったかと思うと、1時間半近く水溜りを楽しんでいました。茂みの向こうで耳をパタパタすると、見え隠れする艶やかなボディ。今までカメラトラップ頼りだった撮影が、今回は2回も至近距離でゾウに遭遇することができ、迫真の動画をカメラに収めることができました!!
他方で…プチ・サバンナは見事にエレファントグラスに覆われ、喜ばしいはずのゾウの増加が逆にバイの植生を変えてしまい、他の動物たちの大切な餌場を奪ったのではないか?という新たな懸念も生まれました。実際、エレファントグラスが生え始めた数カ月前から、プチ・サバンナではゴリラのグループ観察が低調で、このままではエコツアーの目玉スポットが存続の危機に!?
『ゾウの増え過ぎ』疑惑は、ポン・カッセのゴリラ観察トランゼクトでも同じでした。ゴリラとチンパンジーの出会いを求めて歩き回っている最中に、角を曲がったら目の前に母子ゾウ!慌てて逃げる、という場面が何度か発生。ジャングルの中で子連れのメスゾウほど危ない動物はおらず、実はゴリラたちもゾウの親子連れに会うと、さっさと退散するほどです。このおかげでトランゼクトでのゴリラの観察頻度も落ちている様子でした…。
【自動小銃携行でもゾウやゴリラに信頼されるレンジャーたち】
ですのでこの年始に、支援者さんをご案内してロベケ国立公園入りした時も、「ポン・カッセ〜プチ・サバンナライン」のゾウの分布確認が、大きなテーマの一つでした。これからエコツアー復興に向けて一般客を案内する際に、メインストリートの管理は重要なポイントです。特に野生動物との接触事故は、なんとしても防がなければなりません。コロナ前にはついぞ観られなかったマルミミゾウが、これだけ頻繁にこの遊歩道周辺を利用しはじめたとなると、エコツアーガイドには慎重な対応が求められます。
世界では、人口増加に伴って野生動物の生息域に人間の居住区が広がり、『人と野生動物の衝突(Human Wildlife Conflict)』と呼ばれる、しばしば殺し合いに発展する深刻な事態が絶えなくなっています。それに比べて、ロベケのマルミミゾウたちはまだ、国立公園の中を自由に闊歩できるだけ幸せです。この平和な共存を将来に渡って続けていくためにも、特にゾウとはつかず離れずの関係を確立しなければなりません。
実は今回のロベケツアーでも、プチ・サバンナに向かう道端で、マルミミゾウの母子に遭遇しました。大乾季で乾燥し切った森の中では、食べ物が得られる場所も限られるとはいえ、写真のようにAK47を抱えているレンジャーが同行する我々に無頓着に、薮の中をどんどん近づいてくるメス2頭。遊歩道上に先に仔ゾウの鼻先が見えた時には、私自身が自分の目を疑い、思わず前を歩く支援者さんに「下がってください!」。この時は後を歩いていたレンジャーが、すかさず我々とゾウの間に入って様子を観ており、まったく心配はなかったのですが、「それにしても子連れのメスたちが好きに歩き回れるロベケは天国だな」と改めて思ったのでした。
そして同時に、ゾウたちの信頼を勝ち得ているのが、このレンジャーたちなのだという確信も得ました。2023年9月の視察の時も、ポン・カッセでパトロール帰りの彼らと同宿した際に「野生動物は我々の制服を知っていて、AK47を持っていると守ってもらえると思うんだ」と誇らしげに語っていたのですが、30年来の経験で、たとえ丸腰でも人間を見ると襲うか逃げるかの二者択一だったマルミミゾウが、人間に気を許すこと自体が信じられず、このゾウたちの態度は新鮮な驚きでした。
こうした一つ一つの観察も、長年のモニタリングのデータを踏まえた、ポン・カッセやプチ・サバンナの変化を洞察することで活きるのです。皆さまのお力添えで、この生物多様性モニタリングのコロナ禍での中断を、最小限で止めることができたのは僥倖でした。
さてそれで、エレファントグラスに覆い尽くされていた、プチ・サバンナのその後は?というと…。
そもそも、森の中がカラカラに乾き切っていたという前提ではありますが、プチ・サバンナも丈高かったエレファントグラスが倒れ、下草が出ているところが広がって、どうやらカヤツリグサはその下で粘り強く?生き残っていた様子でした! 乾季の重要な食物なのでしょう、この写真にあるようなシロクロコロブスの群れや、別の日には17頭のゴリラ・グループなど、以前、目にしていたのと同じ野生動物の姿が戻ってきていました。
他方で支援者さん滞在最終日の夕方には、ゴリラたちの後に4頭で連れ立ったマルミミゾウの群れも登場! アカンボウとコドモも一緒のメスの健全な群れで、プチ・サバンナがゾウの主要生息域入りした(に戻った?)ことを示す一幕となりました。これから「ポン・カッセ〜プチ・サバンナライン」の動物分布がどうなっていくのか?まだまだ目が離せません!!
【達成できたこと】
⑴ ガードポストの維持管理
みなさまのご寄附は、引き続きポン・カッセ運営費用に当てさせていただきました。
・4人1組(レンジャー2人、生物多様性モニタリング・アシスタント2人)のチームを、ガードポストに1カ月交代で派遣することができ、プチ・サバンナからジャンギまでのエコツアーのメインロードを、シームレスに保護しました。結果、報告期間中の密猟の発生は0件を達成!!ガードポスト整備による、密猟の抑制効果を実感しています。
⑵ 野生動物のモニタリング
ポン・カッセのゴリラ観察トランゼクトの活動内容です。WWFカメルーンからの報告書(報告期間:2024年3月〜10月)によると、今年は以下の項目を実施しました。
・ゴリラ&チンパンジーのベッド(生息場所)の特定
・果樹の利用、食性、出現頻度と、類人猿に利用される果樹の植生、分布
・人間活動の痕跡(密猟の形跡など)
・類人猿との接触時間を記録、人づけ可能性を調査
昨年に続き多数のゴリラが観察されており、少なくとも3つのグループがトランゼクトを利用していると推定されました。ゴリラ・チンパンジーが好む果樹の観察を継続し、トランゼクト内の生態調査を進めるとともに、ツアー客にも興味深い豊富な情報が提供できるガイド養成に繋がるデータ収集も行いました。
⑶ 衛星携帯電話の寄贈
こちらの目標については、衛星電話会社のネットワーク不具合発生で変更が生じました。
国立公園内での密猟など緊急事態発生に備え、レンジャーの通信手段として活用する予定だった「Thuraya衛星携帯電話」は、誠に残念ながら購入を断念しました。ご支援者の皆さまには、個別にあるいは当法人のメールマガジンですでにご報告させていただきましたが…。
3月から日本の代理店と契約を進め、4月中旬には代金も払い込んで購入手続きを進めていました。しかし出発直前の5月になって、日本を含むアジア地域のネットワーク障害が発生し、購入した端末のアクティベートができないなどの問題が発生しました。日本からアフリカのネットワーク状況もはっきり確認できず、リスクを避けるために購入をキャンセルしました。最終的に、こちらの記事にありますように、2024年8月末時点でもアジアのThurayaの通信サービスが回復していなかったため、衛星携帯電話の提供は諦めざるを得ませんでした。
そこでロベケのスタッフと相談し、公園内のパトロールや野生動物のモニタリングに役立つ移動式太陽光パネルと電池(ソーラー発電キット)3台を、代わりに寄贈させていただきました。これによって、パトロールに活用されジャングルでの緊急事態に国立公園事務所にSMSを送信できる、メッセージ通信機能付きのGPSを確実に充電することができるようになりました。また、生物多様性モニタリングのデータ収集に使うスマートフォンを電力量の制限無しで充電可能になり、リアルタイムの価値ある生態学的データを記録し、伝達することも容易になりました。
このようにインフラが十分でない環境下で、持ち運びできる電力を確保することで、バイにおける連絡体制と生物多様性モニタリング・チームのデータ収集効率を大幅に向上することに繋がります。
また、毎月の通信費・維持費としてお寄せいただいた46万円は、年間で約400万円と見積もったポン・カッセの運営費が不足しておりましたために、レンジャーとモニタリング・アシスタントの派遣費用に充当させていただきました。
ロベケニュースレターの記事(2024年発行)
【ギフトについて】
ご希望の皆さまにお送りする予定でしたギフトのうち、昨年後半のアフリカ出張激増(特にコンゴ民主共和国)に伴い、「会員向けメールマガジン」の発行が遅れており申し訳ありません。2カ月に1度を目標に、年最低6本配信しようと考えておりまして、1月発行のメルマガでお知らせしました通り、残り2本分は引き続き、ご希望いただいた皆さまにお送りさせていただきます。
その他のギフトは、メール等にて皆さまにお届け済みとなっておりますが、もしご希望のものが見当たらない等がおありの場合は、どうぞご遠慮なくメッセージないしはメールにてご連絡下さいませ。
【お寄せいただいたご支援の使いみち】
2024年1月末までに、クラウドファンディングにお寄せいただいた3,575,000円は、以下の活動に充当させていただきました。
・ポン・カッセのガードポスト維持費用(活動契約期間:2024年3月〜2025年3月)
(1年間分×月30万円~35万円;レンジャーおよび動物観察アシスタントの日当と食費30日分、必要な機材、消耗品、密猟取り締まり緊急派遣その他の費用):約400万円の一部
・UAPACAAスタッフの現地渡航費:約130万円の一部
・UAPACAAスタッフ人件費・ギフト送料その他、事務局の必要経費:約90万円の一部
・移動式太陽光パネルおよび電池×3台:約31.5万円
※国立公園内のパトロール隊と公園事務所の迅速な連絡を可能にする、衛星携帯電話3台分の端末代(12万円/台)予算36万円をソーラー発電キット購入に、残りをポン・カッセ運営費に割り当てました。
・クラウドファンディング(14%+税)手数料 約55万円
クラウドファンディングで不足した活動資金は、UAPACAAパートナーズに直接、いただいたご寄附等でカバーし、昨年もロベケの保全活動を支援することができました。しかし、いまだに続く円安に加え、年始の出張で実感しましたが遅れてきたアフリカの物価急上昇の影響で、以前と同じ活動をするにもずいぶん追加の資金が必要になっています。
この活動の継続のために、またクラウドファンディング募集を開始させていただきます。これからも、戦争や不況に負けず、さまざまな手段を尽くして、ロベケの成果を継続するために精一杯努力してまいる所存です。
UAPACAAの設立当初から支えてくださっているサポーターのみなさま、過去のプロジェクトから継続して協力してくださっているみなさま、今回はじめてUAPACAAの活動に興味をもってくださったみなさまが、ロベケ国立公園の保全に携わってくださいましたことを、心より感謝申し上げます。




























