
支援総額
目標金額 1,200,000円
- 支援者
- 59人
- 募集終了日
- 2021年4月19日
【プチ講座】ヒアリングとディスクール(前篇)

私にとっての取材の根幹は、ヒアリングにある。インタビューを兼ねる場合もあるが、基本的にはプロット(あらすじ)を構想するための事前取材だ。
民放のテレビディレクターの多くは、事前取材なしに「今のお気持ちは?」的な、現在のことを聞く。NHKに比べ、民放の報道は予算が少ないためだろう。企画に沿って、必要なコメントを撮るという手っ取り早い方法になりやすい。
といって、企画に時間をかけるNHKが、忠実にそれを反映させるかどうかは、別問題なのだが。
さて、社会問題の当事者の中には、生まれたとき既に渦中にある人もいる。例えば、薬害肝炎訴訟の原告・福田衣里子さんは、赤ん坊のときにC型肝炎に感染している。とはいえ、こういう例は私の取材経験の中では、そう多くはない。パレスチナ人を除けば。
(軍事的には)比較的平和な日本の場合、ほとんどの当事者は、人生のどこかで社会問題に直面することになる。私のヒアリングでは、「直面」に至るまでのその人の人生、目指していたものを重視する。
なぜかというと「社会問題の当事者になることで何を失ったか」を、具体的に知り、映像化を構想するためである。ドキュメンタリーには演繹的な部分と帰納法的な部分があるが、後者を形にするには欠かせないポイントだ。
なので、ヒアリングのさいは長く時間を取ってもらい、なるべく遡って、その人の価値観や性格、志向、夢といったものを理解するようにしている。同時に、過去の写真や持ち物を見せてもらったり、過去の環境、風景といったものに関しても細かく質問し、その人の人生をイメージとして共有する。
これによって、「社会問題との直面」を大きく、重いものとして映像で表現できるようになるのだ。この手法、実は、社会調査法のライフヒストリー・サーベイからヒントを得ている。
とりわけ、20代の頃に知り合った沖縄国際大学の石原昌家教授(当時)の沖縄戦調査と、研究生・新屋敷弥生さんがまとめた方法論についての論考に大きく影響された。
彼らの沖縄戦研究は、沖縄戦について聞くのではなく、人生について聞く。その生活に空襲や米軍上陸がどのように影響したのかを、個人の視点で聞き取っていく。人々の経験談によって、「命どぅ宝」を可視化する歴史学なのである。
私のドキュメンタリー手法もこれに倣い、あらゆる分野で、個人の視点を重視した取材を行ってきた。それこそが、視聴者の同一化(感情移入)を得やすく、世界観を変えるのに大きく役立つからだ。
例えば、ホームレス生活だけではなく、なぜその人がホームレス状態になったのかを聞く。原発事故避難者の避難生活だけでなく、それ以前にどのような夢を描いて暮らしてきたか、なぜ避難を決意したのかといったことを聞く。
ただし、「そうだったんですね」で終りにはしない。
報道人になる前の活動「新宿路上TV」のシリーズには、「新宿の先輩たち」というコーナーがあり、毎回野宿の人の人生を聞く。これは主に私ではなく、他のスタッフに任せていたのだが、一つだけルールを決めていた。
それは、「取材の最後に、必ず当事者の【夢】を聞く」という、大胆なコンセプトだった。果たしてコーナーに登場した全員が、実にユーモラスに「夢」を語ってくれた。これによって、「新宿路上TV」全体が、悲惨な印象にならずに済んだし、「ホームレスは怖くない」という認識を広げられた。
そこには、野宿に陥った人を同情の視線で見るのではなく、共に現在を生きる人間として描きたいという思いがあった。つまり、ヒアリングから始める私の企画制作は、取材対象者の過去から未来までを共有する作業である。

とはいえ、「共に未来を思い描く」のが、非常に困難なケースもある。私自身が最も緊張し、胸を痛めつつ、泣きながらヒアリングをした例もある。
それは、過重労働の末、薬物で自死した女性研修医(麻酔科)のお父さんからお話を聞いたときだ。彼女が亡くなってから、まだ3ヵ月も経っていなかった。
家族や親しい人を亡くした人は、その直後は「失った実感」を持てない。今にも「ただいま」と帰ってくるんじゃないか、雑踏の中から「おーい」と声をかけてくるんじゃないか、という気持ちでいる。街で似た服装、似た背格好の人を見ると、目で追ってしまう。そんな時期だ。
なので、とにかく「お父さん」の気持ちになるべく寄り添えるよう・・・これは一つの賭けだったが、私は質問のさいにあえて「現在形」を使った。すると―
子育ての思い出、成長してからの娘さんの性格など、時に笑顔も見せながら、「お父さん」は語ってくれた。医大生の頃に撮ったというスキー場の写真も見せてくれた。そこには、笑顔一杯の、とても欝状態になるとは思えない、元気な彼女がいた。しかし・・・
「私が医学部を受験するよう勧めたんです。あのときそう言わなければ・・・」
「お父さん」は泣き崩れた。残された者はほぼ必ず、自分を責めてしまう。私自身にも経験がある。少し待って、軽く「お父さん」の両肩に手をやって、「私の話を聞いて下さいますか」とゆっくり切り出した。
「研修医だったとはいえ、重労働を強いられていた。つまり、お嬢さんががんばったおかげで、命を救われた人たちがいたということです。お医者さんとして精一杯、世に尽くしたと思いませんか。私はそう信じます」と言った。
「そうですかね、本当にそうですかね」
「そうです。彼女の志半ばの悔しさは、私が世に伝えます」
最後は、二人で抱き合って泣いた。
このときばかりは、撮影を先輩カメラマンに頼んだ。私が使ったのは、ノートとボールペンのみだった。こうしたいくつかのヒアリングを経て、翌年日テレで「麻酔科医」の特集を作った。
リターン
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