和白と朝鮮半島のつながりについて(3)

和白村雁の巣にあった「国際空港」について（続き）

 

現在の雁の巣レクリエーションセンター（当時の雁の巣飛行場）の入り口

 

　1935年に雁の巣飛行場が着工された頃の和白の状況について、以下のような記述がありました。

 

p100
第3章 塩浜村の歴史
　塩浜から奈多に至る田園地帯は、下和白字塚原の山の土を崩して、トロッコで運んで道を造ったものであった。
　昭和10年1月、雁の巣飛行場建設が始まると、ダイナマイトで塚原山の土を崩してトロッコに積み、雁の巣飛行場まで複数のレールを敷いて、何両ものトロッコを小さな機関車が引いていた。そこで働く人々の様子は、開戦が近いことを意識してのものか、緊迫した雰囲気があった。そして、その労働者の中に、大勢の朝鮮の人達がいて、朝鮮語まじりのたどたどしい日本語が飛び交っていた。飛行場は昭和11年6月6日に竣工している。

「ふる里のむかし わじろ」
2006 和白郷土史研究会編

 

　1935年だと、1938年の国家総動員法および1939年の国民徴用令の日本本土での施行、同年の朝鮮における労務動員計画策定の前になるので、ここにいた「大勢の朝鮮の人達」は、いわゆる強制徴用（強制連行）によるものではないのかもしれませんが、しかし、日韓併合による植民地支配の下で、搾取と収奪による貧困から、少なくない朝鮮の人達が海を渡って、 日本の建築現場・鉱山・工場などにおける下層労働者として働いていたといわれています。

 

　雁の巣飛行場があったことで、和白近辺でも戦時中に九州飛行機香椎工場（現在の千早の県警機動隊から香椎団地に至るかなり広い敷地）がつくられ、更にその工場を疎開させる形で塩浜にも和白工場がつくられました。また、松崎や土井には陸軍の軍需倉庫が置かれました。こういった軍需工場や倉庫の建設にも、朝鮮人労働者が動員されたものと思われます。

 

　雁の巣飛行場の建設工事の土を運び出した塚原山は、現在の福岡朝鮮初級学校の東側に位置する現在の和白丘中学校や立花高校のあたりにあり、ここは塚原古墳群というこの辺りで一番大きな古墳が集まっている地域でしたが、雁の巣飛行場の工事で塚原山の土を崩して持ち出したため、ことごとく古墳は破壊され消えてしまいました。当時、鉄刀や人骨が出土し、九大に運ばれたらしいのですが、この時は発掘調査は行われなかったようです。

　戦後、和白丘中学校の建設にともなう発掘調査が周辺で行われ（塚原古墳群山ケ下支群）、6世紀後半～7世紀初め（663年の白村江の戦いや664年の水城造築の半世紀ぐらい前）の横穴式石室を持つ古墳時代後期古墳や須恵器（5世紀頃に朝鮮半島から伝来した新しい技術で焼かれた焼き物）が出土しています。被葬者について、発掘報告書では「周辺の海岸部にその居住地が想定されることは、その被葬者が慣海的性格を具備してしていたと思われる。」としています。いずれにしても、雁の巣飛行場建設のための塚原山の破壊がなかったら、ここで何らかの大きな考古学的発見があったかもしれません。

 

参考資料：

「ふる里のむかし わじろ」2006 和白郷土史研究会編

「わかりやすい郷土の歴史講座　九州飛行機香椎工場」2018 http://ka-syakyo.eek.jp/k-hikouki.pdf

「福岡市下和白塚原古墳群 山ケ下支群の調査」福岡市埋蔵文化財調査報告書第55集 1980 福岡市教育委員会

 

（柴田一裕）