わたしのレジリエンスストーリー⑮　～　上海からのたより

当講座の招へい教員で、中医師として上海でご活躍の藤田先生からのレジリエンスストーリーです。

上海のクリニックで中国伝統医学（中医学・漢方医学）の診療をしている藤田康介です。普段は上海で医療活動をしていますのが、人口2,500万人の巨大都市だけに、日々色々な患者さんと接することも多く、いつも患者さんから様々なことを教わっています。中国の中高年の患者さんはとりわけレジリエンスに熱心にも思います。朝や夕方には公園や広場で太極拳・八段錦・ダンスをする人も相変わらず多いですし、中国の伝統医学を採り入れた様々な健康法を実践されています。

先日診た患者さんは、慢性の便秘の方。検査をしても原因が特定されず、とにかく毎日下剤を使わないと便が出ない。そこで患者さんと議論して思いついたのがカラオケ。中医学では大腸は肺と密接な関係があると言いますが、だったら肺の気を強めることで便がでるようにならないか？というアイデアでした。もともと歌好きだったこともあり、さっそく毎週3回ほど一人カラオケボックスに通って貰いました。しばらくすると、「先生、普通に便がでるようになりました！！」という嬉しい報告が。こうして下剤を使う量を減らしながら、便秘問題解決に一歩近づけたことは大きな進歩です。

私自身もコロナ禍で3年半日本に戻ることが出来ませんでした。上海で65日間のロックダウンも経験しました。ロックダウン期間中は自宅から一歩も外にでることが出来ません。しかし、このロックダウンのおかげでタバコが買えなくなり、自発的に禁煙に成功された患者さんも結構おられます。人間、その気になれば長年の課題を克服できるということがよく分かりました。タバコをやめて身体が見違えるように調子よくなったという方もおられます。これもレジリエンスの体験でしょう。今でこそ、中国での暮らしはコロナ禍前となんら違いがありませんが、でもこの3年半はなにかと不自由がありました。だったらこれもチャンスと思い、私もせっせと運動に励むようになりました。中国国外に出るのが難しいので、カロリー計算をして、せっせと毎日20キロのロードバイクと月数回の山登りに励むようになり、3年半の間で72キロあった体重が62キロまで減少（写真）、脂肪肝気味だった肝臓も解消され、山登りも随分とラクになりました。上海市内には世界一流の自転車専用道路があることも知りました。やってみれば身体に変化は起こせるものです。もしかしたらレジリエンスを感じるきっかけは、ほんの小さなことかも知れません。毎日温泉に通ったら長年の関節痛がなくなったとか、みなさん「細水長流（細く長く）」続けておられます。こうして日々、患者さんからのアイデアに支えながら異国で診察を続けています。