科学者以外にも専門知はある！

▼ちょこっとご紹介の第六弾は、編集の白崎が面白いと思った本書の一部を以下にご紹介します。科学者以外の「専門知」のお話。

▼　科学者以外にも専門知はある！

（本書からの一部）

――科学者は特定の分野において専門知識を持っていると主張したが、だからといって他の人たちには専門性がないと言いたいわけではない。一般の人々の多くにも、農家や漁師から助産師や患者まで、各々の分野における専門知識がある 。患者が自分の病気や医薬品の副作用についてかなりの量の知識を持っていることもあれば、助産師の方が産婦人科の医師よりも正確に妊娠において起こる問題を特定できる場合もある。イギリス人が来る前から、インドには科学的知識が豊富にあり、特にイギリス人が「博物学的」と呼んだものごとに関する知識は豊かだった（現地に暮らす人々はこうは呼ばなかったかもしれないが ）。

              土着の専門知識に関しても、豊富な文献記録が存在する。そこでは一般の人々と専門家の両方が、動植物や地理・地形や気候など、周辺の自然環境や共同体に関する知識を往々にして有している。俗に言う「西洋科学」の外で発展した経験的知識の体系について、私たちの理解はここ数十年でかなり深まってきた。人類学者のスザンタ・グーナティレイクが「文明知識」と呼ぶこの知識体系には、高度な専門性と該当分野における実践的な成功を兼ね備えたものもたくさん存在する 。例えば、伝統中国医学、鍼治療、そしてアーユルヴェーダ医学は、西洋医学ではほとんど対処が利かない病気や病状に対して効果を発揮する場合がある 。文明知識は過去の成功の記録のおかげで発祥地において権威を持っており、鍼治療のような例では発祥地の外においても有効性が確認されている。また、文明知識の研究のおかげで、西洋科学に組み込まれた価値観が明るみになった。こうした価値観の存在は見落とされがちであり、西洋科学者がその存在を否定することすらある 。

              民間知識の伝統の中には、現実世界と経験的・分析的に向き合い続けているものもある。例えば、狩猟採集社会には往々にして植物の分布や動物の移動に関する詳細な経験的知識が存在する。人類学者のコリン・スコットは、クリー族の狩猟伝統は高度に経験的であり、科学的と呼ばれて然るべきだと主張している 。民間知識が科学的知識と重複する場合にも、後者の方が前者よりも優れていると自動的に判断してはいけない 。これはよく知られている例だが、少なくとも18世紀にキャプテン・クックが登場するまでは、ヨーロッパの航海士よりもポリネシアの航海士の方がはるかに巧みに太平洋を航行していた 。

いかがですか？

本の完成をお楽しみに。

▼著者や作品について、詳しくは下記のプロジェクトページをご覧ください。

https://readyfor.jp/projects/naomi-oreskes-science

目標金額は１５５万円です。

支援募集期間　2023年08月21日 午前９時～2023年10月19日 23時です。

最後までお読みいただきありがとうございました。