鹿のうわさ

「おい、またあの人間がいるよ」

「いつも、なんかこっちに向けてるよなあ」

「最初は、また昔みたいにすごい音が鳴って、何か飛んでくるのに当たると死んじゃうやつかと思って恐ろしかったけど、そうじゃないみたいだよな」

「それどころか、木の実を持ってきて食べさせてくれたりするよ」

「そうそう、それで自分じゃ俺らのフンみたいなもん食って喜んでるんだぜ（訳注：ご本人に確認したところ、チョコレートボールのようです）」

「足が速くないのに結構しつこく付いてくるよな」

「夜の森で出くわすとびっくりするぜ」

「こないだなんか、いたずら者の猿が耳引っ張るから、角で突っついてやろうとして気がついたら、角が抜けた後で付いてなかったんだ。その時もあの人が木の陰で笑ってたよ」

「もしかしたら、わしらのことが心配で、見守ってくれてるんじゃないのかな」

「それはどうだか分らないけど、わたしたちのこと嫌いじゃなさそうよね」

「いや、絶対俺たちに惚れてると思うよ」

「人間がみんなあの人みたいだといいのにな」

と、鹿たちの間で何かと噂になっている三上さんです。

記：益田文和