写真家ストーリー⑨中田浩資

今回のプロジェクトメンバー12名の写真家たち。

 

それぞれが、このプロジェクトのために提供した写真作品について、そのエピソードをリレー形式で紹介します。

 

第九回は、中田浩資から。

 

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初めてカンボジアのシェムリアップを訪れたとき、雲の美しさに驚いた。よく晴れた日の午前9時ごろだったと思う。バイクタクシーの後部シートにまたがりながら、くっきりと白く、どこまでも続く雲の流れに見入っていた。

アンコール遺跡群のシンボル、アンコール・ワットを見たのそのときが初めてだった。夜明け前の薄暗がりのなかで徐々にシルエットが浮かび上がる様は、何度見ても胸が高鳴る。

数年前の夜明け前にも同じ場所にいた。シルエットが消えてあたりが明るくなり、観光客が遺跡の中へ吸い込まれていくと、聖池周辺は潮が引いたような静寂に包まれた。

遺跡の中へ入るのはやめ、芝生の上に座り込んで眼前に迫るクメールの遺構を眺めていると、鮮やかな袈裟を纏った小坊主が僕の横を静かに通り過ぎた。そういえばアンコール・ワットの一部は現役の仏教寺院になっていると聞いたことがある。

　
アジアを代表する大観光地ですら、ほんの少し視点を変えるだけで、まったく違った世界に出会えるということを実感した瞬間だった。

 

雲が流れはじめる、少し前のことである。

 

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●中田浩資　Hiroshi Nakata

1975年徳島市生まれ。1997年、渡中。ロイター通信社北京支局で報道写真に携わる。 帰国後、会社員を経て2004年よりフリー。旅写真を中心に活動中。 「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」（下川裕治著、KADOKAWA）など。