VASH2を分子標的とする治療法はどのように効くのか（その１）

私は血管新生の研究から「がん研究」に参入しました。血管新生の最も重要な促進因子はVEGFで、がん領域でも腫瘍血管新生に対してVEGFを標的とした治療法が普及していますが、VEGF阻害の主な効果は、当初考えられていたような兵糧攻めではなく、異常な（未熟な）腫瘍血管を正常化（成熟化）することで抗がん剤を効きやすくするというものです。そして、そのような治療は膵がんには効きません。私はオリジナルな研究を目指してVASH2を発見し、もともと血管新生が研究テーマだったので、腫瘍血管新生の観点から研究して来ましたが、VEGF阻害が効かない膵がんでもVASH2阻害が明らかに有効であることが判明しました。そして、VASH2の作用は血管新生に限定しておらず多彩で、VASH2阻害はもちろん腫瘍血管新生を抑制はしますが、その本体は膵がん細胞そのものの浸潤・転移を阻止することであることを明らかにしました。いくつかの異なる実験系でこのことは確認できており、VASH2を分子標的とした治療法の膵がんに対する効果は間違いないと確信しています。