「持ってる」人

　韓国、京畿湾の干潟に潮止堤防と埋め立てによって出来たのが、人工湖シファ湖だ。
　初めは淡水湖を造成するつもりだったが、工業廃水などが流れ込み、シファ湖は死の湖となってしまう。
　あわてて水門を開けたが、海までが腐ってしまうことになった。
　そこで、政府は自然保護団体の声を受け、淡水化計画を白紙撤回、水門の一部を開けてそこに潮力発電のタービンを設置、海水を葦で浄化して海に還元できるようにしたシファ湖芦原湿原公園ができる。

　これらの提言をしたのは、在野の自然保護団体の代表だった現シファ湖湿原公園長のチェ・ジョンインさんだ。
　彼に言わせると「あんまりうるせぇから公園長にでもしとけ」ってことになったのだろうと笑う。
　前にも書いたが、彼は湿原公園にカワウソの巣箱を設置、繁殖に成功させている。

　さて、彼の次の難題は、公園に隣接した広大な葦原だ・・・海水をかぶっているために塩害の影響で耕作地には使えない。
　高速道路に近く便利なこともあって、国は大規模な工業団地建設計画を進めていた。
　しかし、この広大な土地は湿原公園の懐であり、カワウソだけではなく、ノウサギ、キバノロといった哺乳類、クロツラヘラサギなどの野鳥、渡り鳥の命の保証をしてくれていた。

　開発中止のアイデアが何も出ないまま、今日もチェさんは「トリの写真でも撮るか…」とカメラを片手に出かけた。
　そこで、彼は、不自然に丸い形をした岩を見つけた！？　ソウル大学に送って調べてもらったところ、恐竜の卵の化石だった！！
　大がかりな学術調査の結果、角竜の一種「コリアンサウルス」の化石がまんま１頭発見される。
　もちろん、開発は中止！　「恐竜ビジターセンター」ができ、一大観光地となる。

「持ってる人」…真摯に自然と向き合って活動している人に、自然は応えてくれるのだなぁと思う。
　現在、シファ湖は渡り鳥の楽園になり、潮汐発電が生み出す電気はファチョン全市とソウル市の一部の電力を賄い、高速道路には、野生動物を交通事故から守るアニマルパスウェイが作られている。