
支援総額
目標金額 1,500,000円
- 支援者
- 172人
- 募集終了日
- 2021年2月22日
翻訳小話① 書き出しの一文 早川健治(翻訳家)
翻訳小話① 書き出しの一文 早川健治(翻訳家)
『世界牛魔人』の書き出しの一文を訳したのは2019年11月某日だった。いつもどおり遅めに起きて朝ごはんを食べ、コーヒーをすすりながら原著の1ページ目を眺める。Nothing humanizes us like aporia – ときて、ダーシの後にアポリアについての語りがやや長めに続く。経済の本としては実に変わった書き出しだ。
書き出しを過剰に重んじる書き手は多い。特に昨今の文学では書き出しの一文だけがやけに凝っている作品が多い。これは日本語だけでなく、最近のアイルランド文学においても目立ってきた傾向である。それは何か美学的な理由からというよりも、本屋さんで立ち読みをする読者の気を引こうという販売戦略なのかもしれない。いずれにしても、私は書き出しの一文に特別にこだわったような作品が嫌いだ。
というわけで、バルファキスのこの書き出しの一文も、なるべく自然体で訳したいと思っていた。本作は「です・ます」調でいこうと事前に白崎さんと相談しつつ決めていた。とりあえず訳してみる。「アポリアほど私たちを人間らしくするものは他にありません」。正しいが、冴えない。「アポリア」では伝わらないか。「当惑」「困惑」「混乱」などの訳語も浮かぶが、どれもいまひとつ。アポリアは古代ギリシア哲学に起源をもつ言葉だ。バルファキスはこれによって、本書の隠されたテーマ―ギリシャの財政とヨーロッパの統合―を暗示しようとしている(ように思える)。ならばこれを日本語でも尊重し、アポリアはカタカナのままでいこう。脚注をつけ、興味のある方は脚注をご覧くださいという風にして先へ進む。それでもなおこの訳文は冴えない。ダーシのあとにはアポリアが来るので、「アポリア」という言葉が文末に来るように工夫をしたい。それに「Nothing」という言葉がもつ強度は「他にありません」というような言い方では表現しきれていない気がする。日本語には、文章を長くすればするほど表現が軟らかく曖昧になってしまう傾向があるように思う。だから、政治家が言い訳をするときはなるべく無意味な言葉で沈黙を埋めてくる。そんな政治家の言い訳みたいな文体はバルファキスに到底ふさわしくない。ビシッと決めたい。
この文脈でNothingとは何なのか。「この上ない」という意味だ。この上ないということは、「究極」ということ。究極という言葉にはNothingがもつような強度がある。よし。でも「究極」は名詞ではない。20世紀の学術書の訳者にはこういうときに「究極体」というような造語をする人もいるが、そういう路線は避けたい。そこで、訳語の自由度を少しだけあげつつ訳しなおしてみる。単語や語順を色々と頭の中で入れ替えていくうちに「これだ!」という感じで次の一文が浮かんだ。「人間を人間らしくする究極の材料、それは「アポリア」です」。我ながら上出来だ。この一文だけでおそらく1時間くらい使ってしまったが、この1時間は単に一文の翻訳に費やした1時間ではなく、文体の決定に費やした1時間だと考えた方が正確だ。現に、この訳文には文体を決定づける特徴がたくさん含まれている。「もの・こと」をなるべく使わない、正しくても冗長な表現は避ける、西洋世界の言葉が日本語とうまく合流するような表現を探す、原著の言葉のもつ感触を大切にしていく等々の翻訳方針が一文に凝縮されている。これに従えば、本書にふさわしい文章を作ることができるだろうと予感する。翻訳は問題だらけの作業だが、だからこそ何かがうまくいったときに心の中に湧き上がってくる小さな楽観を大切にしたい。
リターン
3,000円

純粋応援コース
那須里山舎と『世界牛魔人ーグローバルミノタウロス』翻訳出版プロジェクトを応援してくださる方に、㈱那須里山舎より心を込めて感謝のお手紙をお送りいたします。
- 申込数
- 42
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2021年6月
5,000円

完成書籍先取りコース
出版プロジェクトを応援しつつ『世界牛魔人ーグローバルミノタウロス』を本棚に置きたいという方へ。那須里山舎から本書を一冊、発売日前にお送りします。あわせて、感謝のお手紙も同封いたします。
- 申込数
- 110
- 在庫数
- 189
- 発送完了予定月
- 2021年6月
3,000円

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- 2021年6月
5,000円

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