稲葉 寿郎さん（応援メッセージ #02）

 

国産自転車第1号をつくったミヤタ自転車をご存知の方も多いはずです。

 

創業者宮田栄助は、水戸郊外の農家出身で、親戚筋の水戸藩鉄砲指南役国友家（近江の鉄砲鍛冶国友家の分家と水府系纂に伝わる）に弟子入りし、製銃技術を身につけ幕末に笠間藩お抱え鉄砲師となり苗字帯刀を許されていました。

 

しかし、明治維新後の廃藩置県で召し放ちとなり、明治4年に東京に出て製銃技術を用いて、前年に発明され製造がはじまった「人力車」の製作で豊富な資金を得ました。

 

この頃の人力車は1台で現在の50万円近い金額。

人力車製作は宮田だけではなくライバルも多かったでしょう。

 

それでも明治5年には水戸の上市でも既に50～60輌の人力車があったといいますから、人力車自体は全国的に引き合いがあったものと思われます。

 

水戸に縁の深い宮田栄助は、初期の有力な人力車製造業者だったのです。

その後宮田は東京に出て陸軍砲兵工廠に勤務して製銃技術を高め、息子も大阪工廠入りし、親子で宮田製銃所を構えて成功し、外国人の自転車修理を請け負ったことから明治26年には国産自転車第1号を発売、明治42年には国産オートバイ第1号を試作するに至ります。

 

自転車をつくる背景には人力車製造の技術が大きかったといいます。

ミヤタ自転車を受け継ぐミヤタサイクルは現在台湾のメリダグループ傘下の企業として存続していますが、世界的なブランドとして特にロードバイクの世界では高い知名度を誇っています。

 

ミヤタは一時期松下幸之助によって危機を救済され松下グループ傘下に入りました。

幸之助が丁稚としてつとめたのが自転車屋。

そこで宮田の素晴らしい自転車にであったことがきっかけでした。

 

幸之助は自立する際の窮地を水戸徳川家家令の三木啓次郎によって救われました。

幸之助は生涯恩義に感じ三木の数々の提案を素直に受け入れていました。

 

この二人の関係性で生まれたのが松下グループ一社提供のテレビドラマ「水戸黄門」でした。

松下幸之助が憧れた宮田自転車の背景に水戸があったことも、あながち無関係だったとは思えません。

 

ちなみに水戸では明治10年代には300輌、20年～40年代は500～400輌もの人力車が走っていたのです。

明治22年の水戸までの鉄道開業以前には2日がかりで水戸東京をはしりぬける人力車もあったというから驚きです。

 

水戸に走る人力車。

近代日本のあゆみを背負って走る人力車、といえるでしょう。

 

郷土史研究者・水戸桜川千本桜プロジェクト代表　稲葉　寿郎