メッセージリレー⑤バリトン（シャープレス役）大山大輔

【カンボジアでの演奏に向けて】

 

オペラ歌手・バリトンの大山大輔と申します。 この度はとても良きご縁から、初めてカンボジアの地を訪れることとなり、大変嬉しく思っております。

 

私事ですがここ数年、僕の周りにはカンボジアに縁ある友人が多くいらして、ひとりは音楽という文化を届け、その良さを伝え続けたり、またひとりはこれも同じく音楽を伝えたり更には小学校を建てたり、またもうひとりは幼稚園を寄贈したり孤児院の男の子の里親になられたりと、そういう素晴らしい活動をされている友人達のおかげで、その活動の様子を通してカンボジアという国が他の国々よりも、ある種身近に目に映っておりました。

 

 

人が手を差し伸べ、手を携え、共に支え合うこととは如何に尊いものかと常々感じていたところ、 今回、その友人のうちの一人である小川里美さんからのお声がけで、僕もその活動の一端に触れることが叶ったという訳なのです。

 

 

その活動とは、文化・芸術を振興するということ。

 

我々人間は最低限、食う寝る暮らすといったことができれば、ひとまずは生きていくことは可能でしょう。しかしその先へ、より豊かな人生へと一歩踏み出し、真に人間らしい生活をしていく為には、芸術の力が不可欠です。

 

芸術は、衣・食・住の様に人々の日々の主食にはなり得ません。しかし心身ともに健康でいる為にはビタミンやミネラルが欠如してはならないということは、もう皆さんよくご存知のことと思います。

そう。文化・芸術とは、足りない栄養を補うサプリメントの様なもの。

 

カンボジアでは、先の紛争により世界共通語とまで言われるドレミファソラシドが失われたのだそうです。つまり、西洋音楽という種類のビタミンが特に欠乏している国なのだと‥。

 

そこで僕たち芸術家の出番です。 数ある芸術というサプリの中でも、僕たちの調合はとっておきですよ。

言葉×音楽で歌。歌×芝居×オーケストラ（エレクトーン）×舞台上の全てで、これ即ち"オペラ"と言います。

このとっておきの調合であるオペラ《蝶々夫人》で、カンボジアの皆さんの心豊かな未来に向けて、足らぬと云われる栄養を、ごくごく補給していただけたらと思っています。

そしてその栄養価を少しでも上げる為に、いま一度、皆様方の御支援を心からお願い申し上げます。

 

あと数日で現地入りというところまでまいりました。

本当に楽しみでなりません。 何故なら、僕たち日本人が失ってしまった、今や得難い栄養素を、カンボジアの方々が持っている様な気がしてならないからです。 お互いに足りないものは分かち合い、手を携えて歩んでいけます様、このご縁を大切に、行って来たいと思います。

 

大山大輔

 

 

 

大山　大介

 

東京藝術大学首席卒業。

同大学院修士課程オペラ科修了。

兵庫芸文センター《メリー・ウィドウ》ダニロ役にて鮮烈なデビューを飾って以降、多くのオペラで活躍。特に“井上道義×野田秀樹”による《フィガロの結婚》フィガ郎や、手塚治虫原作・宮川彬良作曲 歌劇《ブラック・ジャック》タイトルロール、異彩を放つシアターピース、バーンスタイン《ミサ》でのセレブラント等、独自性の強い作品での主役として圧倒的な存在感を示している。

また古楽や宗教曲においても多くのコンサートソリストを務める他、役者として演劇作品にも多数出演。

劇団四季ミュージカル《オペラ座の怪人》ではタイトルロールとして客演するなど幅広い活躍を見せており、その多彩な経験と独自の表現力から、台本執筆、MC・ナレーション、歌唱・演技指導にも定評がある。

カクシンハンスタジオ講師。

洗足学園音楽大学ミュージカル・声楽コース講師。