全文／プロジェクトメンバーより｜田邉能久（アトリエノア 一級建築設計事務所 所長）

  アトリエノア 一級建築設計事務所 所長
田邉 能久
 

 

皆様、はじめまして。アトリエノア 一級建築設計事務所 所長 田邉能久と申します。

 

私は20数年前より国指定史跡建長寺境内で、重要文化財建造物の保存修理業務に携わっています。また同時に、建長寺延宝境内絵図^※をもとにして、境内復興のお手伝いをさせていただいております。

しかし、昨年、建長寺の内務部長との打ち合わせの際、全国の盲の子どもたちの学びを支えてきたユニリーフ代表の大下様から「寺社仏閣を盲の子達が訪れても、感じ取れることがないのです。」と伺い、頭をハンマーで殴られた様な衝撃を受けました。

 

当時私は境内絵図をもとに、裏山を含めた山陵部境内を調査及び整備し、訪れる参拝者に建長寺の素晴らしさを伝える活動を障害者を含むすべての皆さんにも配慮できるよう整えてきたつもりでした。
しかし、視覚障がいのある方の事を全く意識していなかった事を明確に自覚したのです。

 

建長寺仏殿は、芝増上寺に在った徳川2代将軍秀忠夫人「崇源院」の御霊廟であった建物を建長寺に下賜された、現存する徳川家の数少ない重要な霊廟建築です。現在、保存修理に向けた調査、耐震診断を終え、保存修理が計画されています。その一角に、“さわる”模型設置の計画を組み込むよう働きかけを続けています。

 

現在の進捗としては、3D模型試作品のを実際に触っていただき、鋳造するに当たってのディフォルメ調整、史跡内現状変更協議などを行なっております。

 

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先日、3D試作品を全盲の方と共に触れる機会を頂けた時のことです。

 

全盲の方が、指先から丁寧で慎重に読み取る様子、湧き出る言の葉の数々、表情の輝き。私も、建長寺の維持管理を請け負っている者として夢中でどうしてこのような構造なのか？ここには何があるのか？など質問にお答えするのですが、その場から受け取れるエネルギーは大変大きく、関わる私にとっても何にも変えがたい幸せで尊い学びの経験となり、感動で胸が高鳴りました。

 

 

この“さわる”模型は、障がいのある方はもちろん、障害のない方々にとっても、普段見ることのできない角度から観察できる模型である等、すべての人々にとって有意義な活用が考えられます。

さらに、ここでの取り組みは日本初となり、近い将来、全国のあらゆる文化財や建造物に広がることで、歴史文化の継承に寄与できたならば、これほど嬉しいことはありません。

 

今回、クラウドファンディングという新しい時代のシステムに、代表の大下様、建長寺の皆様と共に挑戦しています。皆様のお志と、お互いを思う温かい心を乗せ、共生社会の実現の一歩として、想いを形にして参ります。ご協力の程、よろしくお願い申し上げます。

 

※ 建長寺の歴史的背景を知る重要な手がかりとして、「建長寺延宝境内絵図」があります。これは延宝6年（1,678年）に、水戸黄門で知られる水戸光圀が、鎌倉時代より長い年月を経て荒廃した建長寺の復興を願い奉納したと伝えられており、四十九院の塔頭をかかえる盛時の姿を伝える重要な資料であります。