アキナの投薬、四苦八苦の話②

前回のクラウドファンディングで頂いたご寄付をもとに進行中のチンパンジーの治療の状況のご報告の続きです。

（前回のあらすじ：用心深い性格のアキナに薬を飲ませるのには苦労しますが、なんとかブドウジュースにまぜた肝炎治療薬を飲んでくれました。）

アキナが順調に薬入りのブドウジュースを飲み始めて、５週間が経過しました。毎日きちんと飲んでいます。アキナに続いて、ほかの３にんのチンパンジー（クミコ、キャンディー、ススム）の投薬も始めていました。

このままいけるかと安心し始めたそのとき、突然、アキナは薬入りブドウジュースを口に貯めて、飲み込まずに一時止まり、「ん？」と考えるようになりました。どうも、薬がバレてしまったようです。高価な薬を吐き出されたら大変です。無理強いはせずに、ミカンジュースに変更したところ、なんとか飲んでくれました。ところが、数日でまた怪しみだしました。

ありとあらゆる味の飲み物を買ってきて、どれだったら苦みをごまかせるか、人間が少し味見をしながら試してみることにしました。
グレープフルーツジュースにまぜると、薬の苦みは感じませんでした。ただ、アキナはグレープフルーツジュースが好きではなかったようです。薬を入れて準備したグレープフルーツジュースは、その日はクミコ（別の治療対象のチンパンジー）に飲んでもらうことにしました。
アキナは牛乳好きなので、牛乳に薬を混ぜてみました。でも、苦味が消えませんでした。アキナに与えるのはあきらめて、薬入りの牛乳はクミコに飲んでもらいました。
野菜ジュースに薬を混ぜてみました。でも、ブドウジュースに入れたときと同じくらいの苦みが残ったので、アキナにあげるのはやめました。薬入りの野菜ジュースは、キャンディー（別の治療対象のチンパンジー）に飲んでもらいました。

そんなこんなでいろいろと試しているうちに、チンパンジー用の食料冷蔵庫は、ドリンクバーのようになっていきました。

そして、とうとう、アキナはジュースを入れたペットボトル自体を怪しむようになってしまいました。中身が何だろうが、とにかくペットボトルに入ったものは受け付けない、という態度です。

これでダメならもう諦めるしかないと、次に選んだのはヨーグルト風味の総合栄養飲料でした。

ペットボトルではなく、紙パックに入った飲み物です。

ペットボトル容器を警戒し始めたアキナの目先を変えようという作戦です。かつ、この飲料は、味が濃厚で、苦みを隠してくれるようです。

幸運なことに、この方法はアキナのお気に召したようです。今のところ喜んで飲んでくれています。

ただし、ひと工夫が必要です。パック入りの飲み物の中身を器に出し、こぼさないように慎重に薬を溶かして、注射器で少しずつパッケージに戻し、テープで穴をふさぎます。そうすることで、あたかも、新品のパックのように装って、アキナにバレないようにしているのです。人間が一度開封したことをアキナに気づかれたら、飲んでくれなくなるでしょう。アキナをだましているわけですが、治療のためなので、許してください。薬入りパック飲料の偽装工作は、神経を使う作業で、３０分もかかります。でも、アキナが喜んで飲んでくれるのなら、毎日の３０分の苦行も楽しくなるものです。

投薬終了まであと１週間というところまでやっと漕ぎ着けました。

アキナの後で投薬を始めたススム、クミコ、キャンディーは、アキナに比べて呑気なようで、疑うこともなくジュースやイモ団子に入れた肝炎治療薬を喜んで毎日飲んでくれています。大事な薬はこれまで１錠も無駄にすることなく投薬は進んできています。これから次々と治療終了日を迎えることになるはずです。 

このまま４にんが無事飲み終わり、肝炎ウイルスが消えていることを祈るばかりです。