写真集　KATACHIより

蒸気機関車　B20型　動輪とクロスヘッド

京都鉄道博物館

Nikon Z7+Nikkor-Z 58mm

最初に写真を始めた理由は撮り鉄だった。たしか1968年ごろ,家にあった　オリンパスペンで板橋駅に来る蒸気機関車を撮ったのが初めての撮影だと思う。それから写真にのめり込んだ。そして今でも鉄道写真は僕の原点

コロナ禍になる前、Nikon Z7のプロモーション写真展を依頼された。もともと僕はニコンの硬めのモノクロ諧調表現が好きだった。それと同時にシャドー部（写真の暗い部分　あるいは影の部分）の諧調表現がニコンがとても好きな理由の1つだった。

Z7のプロモーションで僕が選んだ被写体のコンセプトの１つがKarachiだった

硬さが生きる諧調表現、それはとりもなおさず金属物だった。オブジェになるような、かつ線の美しさと重厚さがあるもの。頭に思い浮かんだのは蒸気機関車。その動輪やパーツの1部を切り取る事だった。僕は京都の鉄道博物館に向かった。多くの蒸気機関車がある中でB20という小型の蒸気機関車を選んだ。

理由は小さいながらもとても機能美がまとまっている。無駄1つ無いつくり。それもそのはずB20は太平洋戦争真っただ中に生産された蒸気機関車。戦時中の金属不足を補い、極力無駄をそぎ落とした姿は、悲しいまでの美しさがあった。撮影は自然光、なので蒸気機関車の展示する車庫に太陽が射しこむ時間まで待って撮影した。どうしても人工光源を使うと光が硬くなるあるいは、わざとらしさが出てしまう。なので蒸気機関車に太陽の光が射すまで待った

そな風にして撮影した1枚。さらモノクロは画像処理で光を整える。余分な光の反射や点を消し去り、被写体の質感に鑑賞者の眼が自然と向くようにする。

１つ写真をじっくり見ていただきたい。部品に何やら数字や文字が打ち込まれている。左の金属の棒に「L 2010」と書いてる。これはB20型　10号機　左サイド部品の意味。Lはもちろん左LeftのL。戦争中　英語は敵性語で使わないと聞いていたが、こんなところにアルファベット表記になっているのが興味深い。

この文字は何のためか？蒸気機関車にも車で言うところの「車検」がある。機関車をばらばらにする。そして保守点検をしてまた組み立てる。その際に間違わないために打刻が撃たれている。そんな数時までじっくり表現出来るようにライティングして撮影した

そして写真集にするときに、この重厚な金属感と写真暗部の質感がつぶれないように印刷しなければならない。通常の印刷であれば、原稿を印刷会社へ納めて、校正刷りの時に修正する。だが今回は、モノクロ印刷で多くの写真家に定評のある東京印書館さん。彼らからのアドバイスで、相原さんのトーンを私たちも理解して、最低でも100%の再現をしたいので、念には念を入れ、本刷りの前に、1回テストプリントをして諧調表現の確認作業をしたい、そういうお申し出があったので、テストプリントをした。

モノクロ写真はトーンが命。そしてクラウドファンディングで、ご支援いただく皆様　写真展等で写真集を手に取ってみていただく皆さまのご期待を裏切らない、ご期待以上の質感を得るために手間を惜しまない、そうして制作しているのが、KATACHI写真集。ぜひその質感を多くの皆様にご覧いただくために、クラウドファンディング御支援よろしくお願いします

写真家　相原正明