ワルシャワ公演実現までの道のりを語っていただきました。

皆さま、ツアー後もご支援をいただき、ありがとうございます。皆さまの温かい言葉に、大変励まされております。引き続き、応援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 

さて、本日は、ワルシャワ公演をプロデュースしてくださった藤井カルポルク陽子さんに、公演までの道のりについて書いていただきました。藤井さん・カルポルクさんご夫妻のご尽力がなければ、ワルシャワ公演はあり得ませんでした。深く感謝しています。

 

それでは、ワルシャワ公演実現の裏側を、皆さま、どうぞお楽しみください。

 

 

ワルシャワ公演に至るまで

 

藤井カルポルク陽子

 

　清水寛二さんは2014年ルブリン国際音楽祭KODYへ能楽師の5人グループ「座五華」のリーダーとして出演し、その後ザブジェ市のグイド炭坑劇場という地下230メートルにある劇場で演能されたことをきっかけに、ポーランドで能のレクチャー・デモンストレーションをされたり、元駐日ポーランド大使ヤドヴィガ・ロドヴィチ＝チェホフスカさん演出の現代演劇作品「祖霊祭」に出演されたりするようになりました。能の魅力を様々な形で伝えてくださった清水さんは、日本ポーランド国交樹立100周年となる2019年に、新作能「ヤコブの井戸」と「長崎の聖母」をぜひポーランドで上演したいという希望を持たれ、私も微力ながら準備を一緒に進めていくことになったのです 。

 

　「ヤコブの井戸」の台本を初めて読ませていただいた時、民族間、宗教間の違いや対立をこえて水を分けあうという、まっすぐで力強く重要なメッセージに心を打たれたのをよく覚えています。お互いのたった一歩の歩み寄りによって、豊かな水が湧き出、どんな渇きをも潤し癒していくイメージが印象深く、忘れられませんでした。

 

　そして、ポーランドでの上演実現のため劇場探しが始まりました。初めは難航した劇場探しでしたが、以前から日本文化紹介で交流のあったワジェンキ博物館のキュレーター、ヨアンナ・シュマンスカさんの有難いご提案により、ワジェンキ公園内の水上宮殿およびロイヤルシアターで上演できることになりました。ワジェンキ公園内には18世紀からの歴史的建造物が残りますが、その中でもロイヤルシアターは1780年代後半に造られて以来、幾度もの戦災を免れ、その姿を現在にとどめる貴重な劇場です。こうした劇場はヨーロッパでも数少なく、ポーランドでは唯一のものなのです。この劇場をつくったのは、芸術と文化をこよなく愛するスタニスワフ・アウグスト・ポニャトフスキ王でした。彼の理念のひとつに、芸術による民の啓蒙がありました。「ヤコブの井戸」はまさに、能という芸術によって現代の問題に目を向け観客に深く考えさせる作品で、その上演の場がロイヤルシアターだったことは、ポニャトフスキ王の理念に響き合うものだったのではないかと思います。今回のヨーロッパツアーはワルシャワで終わりましたが、今後も「ヤコブの井戸」が様々な場所で上演され、観客の心に種をまき、そのメッセージを伝え続けてくれることを期待しています。

 

 

 

ワルシャワ公演より。下の写真は、今回役者さんとしても活躍してくださったカルポルクさん。