尾崎行雄の悪筆に手を焼いたお話

私ども尾崎財団では、尾崎行雄に関するお問い合わせをいただくことが時々あります。
その中でも比較的多いのが、揮毫や書簡など、尾崎が書き残した物に関する質問が半数ほどになります。
つい先日は、次のようなお問い合わせをいただきました。

「尾崎先生の為書きがあるのですがどのような事が書かれているのか分かりません。教えて頂ければ幸いです。」

質問とともにお送りいただいたのが、額装された書画になります。
揮毫そのものは尾崎の門下生で、後に尾崎財団理事も務めた五明忠一郎（1887年生）氏宛のものとされています。
果たして皆さんなら、どう読まれるでしょうか。
ある財団スタッフは、次のように推論しました。

源（はじ）まりに義ありてを美を為す
五明君属（五明君に託す）　咢堂書

論語の有名な章句に「里仁為美（里は仁なるを美と為す）」がありますが、それの我流アレンジ的な揮毫にも読めます。
ただし「レ点」の漢文訓読ではなく、読み下しをそのまま書くことも尾崎は少なからずあったようです。

創作熟語のみならず、尾崎は揮毫を頼まれるとその時々で思いつくままに筆を走らせる性分だったようです。変わったところではローマ字の揮毫なども残されています。

Makoto hodo taisetsuna mono wa arima sen
Ozaki Yukio
（誠ほど大切なものはありません　尾崎行雄）

節操がないというか、自由気ままというか。

一説によると、これは福澤諭吉や坪内逍遥らの影響をうけて「漢字廃止論」に走ったころの揮毫と思われます。尾崎いわく、アルファベットで字を書くのに比べ、漢字は部首や画数などで時間がかかる、また学習面でも損をしているとのこと。

ここまで来ると偏屈を通り越し思わず苦笑いしてしまいますが、PCが普及しローマ字入力が日本語環境の主流となっている現在ならば、ある意味で尾崎の論は時代を先取りした慧眼と言えましょう。

冒頭お問い合わせの揮毫ですが、４文字の解読はあくまでも財団スタッフのの見立てに過ぎません。国語漢字を専門に研究された方ならもっと正確な見解を導き出せるのではと期待しています。
尾崎の悪筆と財団スタッフの浅学菲才も相まって何とももどかしい限りですが、識者の方がいらっしゃいましたらぜひ財団までお知らせいただけると幸いです。