【残り2日】応援メッセージ｜玉岡かおる先生・釜谷春菜さん

運命のみほとけ

玉岡かおる

聖林寺の観音さまのことは、エッセーで何度も書かせてもらった。 それだけ、書いても書いても書き尽くせない出会いだった。 行き先も決めずに乗ったタクシーで、サイコロでも転がすように、運転手さんに「オススメの古寺はありますか」と訊いてみたのだ。「お客さま、それなら、私の”運命の仏像”がいらっしゃるお寺をお薦めしますよ」 ハンドルを握る白い手袋のほかは、初老の運転手さんということしかわからないが、もとは東京の人だったとか。現役時代、仕事に疲れ、人間関係にすり減った時、ふらりと奈良へよくやって来たのだという。そして、出会った。運命の仏像に。「ボロボロでたどりついて、見上げているだけで涙が出てきました。理由なんかありません。ただ、仏さまのありがたさに泣けた、というか」 なんという話だろう。それ以降、人生にくたびれるたび訪れて、リタイアまでを勤め上げた。そうして東京を引き上げ奈良に移り住んだのだという。毎日でもその仏さまに会うために。たしかにそれは”運命の仏像”。その存在を体で感じることで、一人の男性が心をリセットされ、生きる活力を吹き込まれたのだから。「そのお寺へ行ってください。その仏さまのお寺に」「かしこまりました」 仏さまのことは、あらためて書くまでもないだろう。 理論ではない、説明もいらない。衆生を救うため頭上に十一の顔をもった観音菩薩は慈悲の仏は、長く秘仏であったというだけに圧巻の存在感だ。いつか私も無言でひざまずいていた。 明治の始め、廃仏毀釈が吹き荒れる時代に、この仏さまは心ある人々によって聖林寺に運び込まれ、難を逃れた。つまり、もしかしたら我々が永遠に目にすることもかなわなかった仏さまだ。 人の心が、別な誰かの心へと受け渡して今ここにおられる。この国の歴史のためにも、疲れた無数の魂のためにも、失うことなどできないだろう。

下の娘(仏女)は数ある仏像をアイドルグループと見立て、特に好きな観音様像を「推し」と呼びます。 此度の聖林寺展はまさに「推しの追っかけ」であり、ファンにとっては幸せ極まりないことでした。 グッズの「推しTシャツ」もしっかりゲットし感無量のご様子。 (奈良の聖林寺さんではマスキングテープを各種ゲットしていました。)