研究対象とする日本刀の扱いと研究の詳細について1

開始したばかりにも関わらず，多数のご支援をいただきましたこと御礼申し上げます。

一方で，今回のプロジェクト概要に記載をしておりました，分析に用いる日本刀に関する説明が大変不十分なものでした。日本刀の愛好家を含む関係の皆様に，ご不安やご心配，ご不快な思いを与えてしまったこと，深くお詫び申し上げます。

今回，日本刀から分析用のサンプルを採取し分析を行うことを計画しておりますが，それらは先行研究などで既に切断されている日本刀，あるいは刀匠よりご提供いただきました熱処理時に僅かな割れが生じたため，美術刀剣などとして仕上げることができなくなったものを用います。未切断の健全な状態を保っている日本刀を新たに切断し，貴重な日本刀を破壊してしまうようなことは致しません。説明が不十分だったこと，重ねて深くお詫び申し上げます。

一方で，健全な状態の日本刀を評価対象に含めないことから，取得できるデータ，そしてそこから得られる知見にも制約が生じることが予想されます。そのため，評価は難航し，すぐに華々しい成果を得ることは難しいかもしれません。しかし，本研究に限らず，研究を進める上で様々な壁が生じるのは常であり，その壁を超えるための大きな武器が先人達による膨大な知見と，それを扱うための研鑽を積んできた研究者の力であると思います。一筋縄でいかない研究であることは重々承知しておりますが，それに挑戦するために立ちはだかっている「資金という壁」を越える機会をいただきたく，皆様にご支援をお願いした次第です。

では，今回の研究において武器となる得る知見はなにか？，という点については，鉄鋼材料に関する「製法（材料の種類や熱処理など）」−「組織」−「（強度）特性」の関係となります。

製法によってその組織が決まり，組織によって強度を含む種々の特性が決まります。現在の材料開発において，これらは三身一体となって考えるものとなります。これらを行える研究者は官民問わず数多く存在します。しかし，ここで問題になるのが，標準的な分析方法で日本刀の強度を正確に評価することができないという点です。この問題を解決できる大きな糸口となるのが，私が専門としている微小なサンプルによる強度評価法となります。特に，構造物の強度を考える上で不可欠な「引張特性」，そして武器として日本刀を振るった際の破壊要因になると思われる「破壊靱性」の評価を行うことが可能です。これらの特性は，従来の日本刀研究で使用されてきた「硬さ」では決して評価できないものであり，武器としての日本刀を科学的に理解する上で，重要な知見になると考えます。

さらに，「製法」と「組織」を検討する上では，鉄鋼メーカー在職中に扱った自動車用高張力鋼板（超ハイテン）の研究開発経験が活きてくると考えています。この超ハイテンは，材料単体で強度と壊れにくさを実現しており，日本刀の構造的な強度と通じるものがあります。これを含む詳細につきましては，次回の掲載とさせて下さい。