電子顕微鏡による日本刀の金属組織観察

前回の電子顕微鏡観察の続きとなります。電子顕微鏡による観察結果です。ただ，詳細な情報はご寄付いただいた際のオンライン講義でご説明したいため，少し内容を省いていますのでご了承下さい。

 

鏡面まで仕上げたサンプルの表面を酸性の溶液で僅かに溶かしました。この処理，一般的には腐食やエッチングと呼ばれます。写真は，前回も掲載した腐食後のサンプルです。腐食は組織の種類や向き，大きさなどによって溶け具合が異なるため，よい塩梅で溶かすことができれば「組織」が見えるようになります。ただ，日本刀の場合は，組織の種類や大きさが場所によって大きく異なるため，全体をバランスよく腐食することは通常よりもすこし難しいです。

 

 

今回観察に用いたのは，走査型電子顕微鏡（SEM）です。岐阜大学の科学研究基盤センター機器分析分野には，学内で共同利用をしている様々な分析装置があり，SEMは3台あります。今回は，その中の日立ハイテクノロジーズ製の電界放出型のSEM S-4300を用いました。

 

 

最初の写真は，焼入れがされていない部分となります。中央のひし形状のものはビッカース硬さ試験のあととなります。軟らかいと痕は大きく，硬いと痕は小さくなるため，この圧痕の対角線の長さを用いて硬さを算出します。

 

硬さ試験の痕以外の部分は白っぽくなっていますが，その部分を拡大したのが次の写真となります。ほぼ真っ白に見えていた部分は，白い物が幾層にも緻密に並んでいたため白く見えていました。光学顕微鏡では，この緻密な層の一つ一つを観察することは難しく，SEMだから観察できる情報となります。この白い部分は鉄と炭素が結合した析出物となり，この析出物が緻密に存在するほど鋼の強度はあがります。なお，写真下部の島状のものは腐食が不十分で溶け残った部分だと思います。