
支援総額
目標金額 1,500,000円
- 支援者
- 172人
- 募集終了日
- 2021年2月22日
バルファキス&チョムスキー ニューヨーク対談②
ニューヨーク対談 財政民主化への道 ②
ヤニス・バルファキス×ノーム・チョムスキー
2016年4月16日 ニューヨーク公共図書館(NYPL)
https://www.nypl.org/audiovideo/yanis-varoufakis-noam-chomsky
バルファキスさんとチョムスキーさんの対談第二回をお届けします。ここでは「経済学と政治権力」との関係について語られると同時に、経済学の「欺瞞」について語られます。
「資本主義について何も教えてくれないモデルを構築すればするほど、学界における経済学の地位は上がっていった。」というバルファキスさんの発言は経済学のプロが語るだけに真実味がありますね。
(前回よりの続き)
チョムスキー アダム・スミスの著作で私が特に気に入っている節がある。新生の植民地―新たに「解放」された植民地―に対して「正しい経済理論」(sound economics)に従うようスミスが助言する箇所だ。それは今日IMFが第三世界諸国に対して行っている助言にも通ずる。スミスはこう助言している。「きみたちは比較優位(と後に呼ばれる概念)に特化すべきだ。きみたちは農産物の生産が得意なのだから、それに集中すべきだ。羊毛や海産物などを輸出すればよい。工業製品をつくろうなどとは思わないことだ。それはイギリスが得意とする分野だからね。だから、きみたちは工業製品をイギリスから輸入すべきだ。イギリスの得意分野は工業で、きみたちの得意分野は綿や穀物なのだからね」。ちなみに言っておくと、ここで言われている綿の生産はお世辞にも自由な事業活動とは呼べない(笑)。[それで、スミスはこう続けた。]「きみたちは資源を独占してはいけない。代わりに私たちの言うとおりにしなさい。そうすれば万人が利するのだからね。経済理論がそれを証明している」。
ところで、アメリカはイギリスによる支配から自由だった。だから、アメリカはイギリスと同じ道を、すなわちこの「助言」とは正反対の道を選ぶことができた。関税を上げてイギリス製品の流入を防ぎ、それによって自国内に繊維産業を確立した。産業革命の幕開けだ。後にアメリカは鉄鋼産業を守るためにあえて高品質なイギリス産の鉄の流入を防ぎもした。さっきも言ったように、今もなお高度科学技術においてアメリカは同じことをしている。独占ということで言えば、アメリカは産業革命の黎明期において最重要の資源、つまり綿の独占に全力をあげた。綿こそ「19世紀の石油」であり、アメリカはそれをほぼ完全に独占していた。メキシコ侵略も綿の独占を目指して決行された。自由な事業活動とは呼べないよね。綿の独占によって、アメリカは当時の宿敵であるイギリスをなんとか乗り越えようとしていた。当時、イギリスは超強力な敵国だった。ジャクソン派の大統領たちは―タイラーやピアースなどの19世紀の大統領たちは―綿さえ独占すればイギリスに降伏を迫ることができると考えていた。この思惑は大成功をおさめたとは言えないけど、それでもかなりの成果をあげた。(ついでに言っておくと、これと同じことをしただけで、サダム・フセインは1990年に非難を浴びた。「フセインは石油を独占することでアメリカ全土を支配しようとしている」という、実に馬鹿げた非難をね)。とにかく、アメリカは実際に綿を独占しようと動いた。イギリスからアメリカへ権力が移った理由の一つがこれだ。これは「正しい経済理論」を評価するうえで参考になる好例だと思う。
それに、実際に「正しい経済理論」が(すなわち自由主義的な政策が)実践された地域も存在する―第三世界諸国だ。これは偶然ではない。発展途上諸国(グローバルサウス)を見てほしい。無事経済発展を遂げた国は日本だけだったわけだけど、日本は植民地支配を受けなかった唯一の国だ。東アジアにも目を向けてほしい。「東アジアの虎」になれなかった唯一の国[フィリピン]は、1898年にアメリカによって侵略され、国民が数十万名も殺され、今もなお擬似植民地状態にあり、「アジアの虎」の産業化の波に乗れずにいる。このパターンに例外はないが、なぜか経済理論には登場しない。不思議なことだ。きみは経済学者なわけだけど(笑)、これについてどう思う?
バルファキス そうだねえ、なぜそれが経済理論に登場しないのかというと…… 経済学は1950年代以降の大学において社会科学の女王の座へのし上がった。学問の世界において経済学が言論の権力や独占力を持ちえたのも、「普遍的な真理を数理的に導出する唯一の社会理論」という体裁のおかげだった。こうして経済学は権力の確立に成功する。社会学者と人類学者と経済学者が研究助成金の給付申請をした場合、言論の独占力(discursive monopoly)のおかげもあって、助成金はいつも経済学者の手にわたった。しかし、数理モデルを完成させ、数式から解を導けるようにするためには、モデルを実在する資本主義から引き離す必要があった。例えば、「時空間は存在しない」という仮定が用いられたりした。時間や空間をモデルに導入しようとすると、決定不能性(indeterminacy)が生じてしまう。解がない数式、あるいは無限の解が存在する数式からなる系に行き着いてしまうんだ。そうなると、予測が立てられなくなってしまう。「この理論によるとこれこれこういう現象の発生が予測されます」と言えなくなってしまう。
ここから実に興味深いプロセスが浮き彫りになってくる。「逆ダーウィニズム」とでも呼べるプロセスだ。資本主義について何も教えてくれないモデルを構築すればするほど、学界における経済学の地位は上がっていった。あなたが説く「公共の知識人」(public intellectual)とは正反対の学者たちが量産されたわけだ。経済学者たちは魅力あふれる抽象概念を創造し、美しいモデルを構築した。僕もそれを夢中になって勉強した。ちょうど美術館で抽象芸術をみて感動するようなものだ。こうした抽象物の形式からは資本主義に関する真実が学べるわけではない。経済学者という職業に関する「知識の社会学」(sociology of knowledge)はこんなところだけど、なかなか面白いよね。
これと並行して、もう一つ大きな変化が起きていた―ブレトンウッズ体制の終焉と銀行業部門の解放だ。ブレトンウッズ会議は1940年代から1973年までの戦後第一フェーズの枠組みを設計したわけだけど、そこでルーズヴェルトから会議への参加を拒否された人たちがいた。それが誰だったのか、覚えているだろうか。そう、銀行家だ。ブレトンウッズ会議には銀行家が一人も参加しなかった。フランクリン・D・ルーズヴェルトがはっきりと参加を禁じたからだ。おかげで、1944年から1971年までは銀行も立場をわきまえて細々とやっていた。ところが1971年に銀行業は束縛から解放された。その理由については後でまた話すとしよう。こうして、諸銀行は民間通貨を好きなだけ発行する能力を得た。それは世界資本主義とアメリカの覇権体制の戦後第二フェーズにとって欠かせない要素だ。このように銀行を「解放」するにあたっては、建前となる理論やイデオロギーが必要となった。経済学者たちは2008年前後の惨事の引き金をひいたわけだけど、僕はそれを責めようとは思わない。ただし、金融家に数理モデルを提供した責任は追及すべきだと思う。経済学者たちの説教は金融家に安心感を与え、「金融界で行われていた諸々の行為は科学的であり、リスクフリーであることが数理的に証明されている」と信じる動機を与えたわけだからね。そこからくる精神的・感情的支えがなければ、被害の規模ももう少し小さく済んでいただろうと思う。
チョムスキー 科学と学術研究の歴史においても興味深い瞬間が2008年には訪れていた。というのも、きみも知ってのとおり、経済学者たちは、自分は経済を制御し管理する術を完全に理解しているという実に傲慢な主張をしていた。効率的市場仮説や合理的期待仮説といった原理をふりかざしてさ。こうした仮説に疑問を呈する人々は即座にばか者扱いされた。この知の建造物は2008年に音を立てて派手に崩れ落ちたわけだけど、経済学という職業には何の変化も起きなかった。
バルファキス まったく何も変わらなかったね。強いて言うならば…… 僕は高速道路で運転するときにいつも制限速度をオーバーしてしまうので―それについては申し訳ないと思っているよ、本当に―当然ながら警察官に注意を受ける。すると、その後20分くらいは制限速度内で運転をするようになる。でもそれは20分以上続くことはない(笑)。すぐにまたトップスピードで駆け抜けていく(会場笑)。経済学の世界で起きたこともまさにこれだよ。ほんの一瞬だけ……
チョムスキー でも中には反省した人もいたでしょう。
バルファキス いたけど、ほんの一握りだね。ほんの一瞬だけ謙虚になり、おとなしく頭を下げていた。でも20分経ったら何事もなかったかのようにまた同じごみ理論を学生たちに教え始めた。何が興味深いって言うとね、ノーム…… これについては2つに分けて説明しよう。経済学者たちはこの数理的宗教を―たくさんの数式に粗悪な統計をひとつまみ加えて作られた宗教を―満場一致で盲信したわけではない。そこでは2つのことが起きていた。まず第一に、経済について冷静に考える能力を保持していた人たちは「民族浄化」の餌食となった。主流のドグマに挑戦状を突きつけるような経済学者は制度によって淘汰されたわけだ。研究助成金を得られず、博士課程の学生もつかず、弟子たちは大学で職を得られなかった。まさに「粛清」(パージ)だよ。第二に、そしてこれこそ実に興味深い現象なのだけれど、一般均衡モデルを設計した天才たち、いわばローマ教皇たちは、自分たちが作った宗教を信じていなかった。ケネス・アローやジェラール・ドブルー、あるいはジョン・ナッシュといった人たち、この欺瞞に満ちた体制の基盤となる数理体系を作った人たちだ。例えば、ケン・アローについて話そうか。1990年代前半にニューヨーク大学(NYU)で彼が講義を行ったときのことを僕は今でもよく覚えている。参加者は20名くらいで、講義の内容は数学的でとても複雑だった。ケンは熱心に数式を展開していた。途中で一人の教授が手をあげてケンの話をさえぎり、こう質問をした。「アロー教授、数式3.3は税制Aの方が税制Bよりも好ましいとする議論と重なるように思えるのですが……」という感じでね。するとケンは質問者を制してこう答えた。「やれやれ、」―ケンは人を見下すような物言いをする人だった―「きみは面白いアイデアと役に立つアイデアを混同している」とね。驚きだったよ(会場笑)。「このアイデアを現実世界で応用するのは危険すぎる」とケンは続けた。つまり、教祖たち・教皇たちは、自分たちの理論がポスト資本主義社会を扱っているという事実を自覚していたんだ。それは労働市場がない社会、労働者の搾取がない社会、独占が起きない社会、雇用主や起業家、複合企業といった主体が価格操作をする能力を一切持たないような社会だ。この社会には企業すら存在しない。企業とはそもそも何か。企業とは、市場と完全に独立した場のことだろう? 企業とは序列構造(ヒエラルキー)であり、ゴスプランと中央計画当局を兼ね備えたプチソ連だ。グーグルやマイクロソフトの中を見れば一目瞭然だろう。
(続く)
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