「ありがとうございます（ 後編）」　江崎珈琲店　江崎正憲

昨年の冬に、私の店の出店先の建替え期間を利用して、約50日間かけて車中泊で日本全国（北海道、沖縄、九州の近郊は除く）珈琲行脚をしました。珈琲のように苦甘くて、思い出深く、実り多い大きな経験（財産）となりました。

森光宗男の影響力の大きさは分っていたつもりではあったのですが、旅を通して自分の想像以上に大きいということを実感しました。
美美は店舗が幾つもあるわけではありませんし、特別大きなお店ではありません、しかも西の果てのお店です。きっと、それだけ、マスターが強く心に響く、残るしごとをしてきたということなのだと思います。自分も、経済的な大きな成功よりも、そのような仕事を目指していきたいと、より明確に思うようになりました。

旅の最終日、終着店と決めていた美美で、最後の一杯のイブラヒムモカを飲んだとき、私は本当に美美でよかった、と感極まりました（優劣云々の話しではなく、自分と共鳴するかという点で。全国をまわって、やはり美美の珈琲と似ている珈琲は無く、唯一無二な完全なるオリジナルでした。）。

“珈琲は人を表す、珈琲は最終的には人だ”
と言われることがあるのですが、最初はなんとなくなくそうだなと思っていたのが、珈琲を続けているとそれが少しずつ実感を伴ってきました。

葬儀が終わってから年末まで、マスターを慕っていた珈琲屋を数件訪れたのですが、昨年マスターが最後のエチオピア産地視察で何かを託すかのように連れて行った焙煎士３人を含めて、ひどく気落ちしていたのがとても印象的でした。私も含めた弟子は父親をなくしたようなもので当然としても、他の同業の人々にこれほど悲しまれるということは、マスターが皆さんから愛されていたということで、それだけ愛したということでもあるのでしょう。（豆香洞コーヒーの後藤さんのマスター追悼ブログ　http://secure.tokado-coffee.com/alq33627/about2016　）

マスターが亡くなってから、しばらく自分の意識が現実にピントがあっていないような状態が続いて、毎日マスターのことばかり考えていたのですが、考えれば考えれるほど偉大さや教えの深さが身に沁み、その存在感は大きくなり、アル・シャーズィリー（アラビア・コーヒー発見伝説で巨大化する師匠）かい、と心の中でつぶやいたものです。大きな人でした。
美美の珈琲、美美はやはり、森光宗男（正確には、マスターと充子さん。今はマスターとともにある充子さん）の大きさであり、そのものなのだと思います。やはり「珈琲は人」なのでしょう。

言葉もやはり人を表しますから、一人でも多くの方に、“モカにはじまり”　にてマスターの言葉、人となりにふれていただけたらと思います。

江崎珈琲店 江崎正憲