これまでの研究とコレクション自慢の会のかかわりと今後の展望（3）

　こんにちは。名古屋大学総合保健体育科学センターの古橋です。

　第3回目の今回は、コレクション自慢の会とフランスとのつながりについてお話ししたいと思います。

　前々回（第1回目）で、私とフランス、とくにストラスブールとのかかわりについて、お話ししました。2017年にストラスブール大学病院精神科セクター医療部門臨床観察医の資格を得ると、そこからまた新たなつながりが生まれ、同じ年に、ストラスブールにあるITHAQUE（フランス依存協会）内に、私の監修のもと、「ひきこもり家族相談窓口（Détours）」を立ち上げることになりました。

　「Détours」は日本語では「回り道」と訳されます。しかし、「回り道」と言っても、頭文字の「D」が大文字であることが重要で、固有名詞としての「回り道」です。「détours」ですと普通名詞になります。ですから、「Détours」は「名古屋大学」のような固有名詞としての「回り道」です。我われの感覚からすると「それぞれの人にそれぞれの『回り道』」というような意味で、普通名詞として考えたくなるところですが、「Détours」はあくまで「ストラスブールのITHAQUE（フランス依存協会）の中にある『ひきこもり家族相談窓口』」を指しています。

　ここには、フランス全土のひきこもりを抱えたご家族から、年間350件ほどの相談が寄せられています。毎週火曜日に「ひきこもり家族相談窓口（Détours）」のミーティングが開かれるのに合わせて、私はそこで対応にあたる心理士さんたちにスーパーヴァイスを行っています。2019年には、ITHAQUE主催の市民講座も行い、その様子は、地元の新聞（写真）にも取り上げられました。

さて、この「ひきこもり家族相談窓口（Détours）」や、他にはレンヌ大学でも、名古屋大学と同じような「コレクション自慢の会」が開かれようとしています。これまで私は英語でもフランス語でも「コレクション自慢の会」を示すときには“Collection Club“と頭文字を大文字で表記してきました。つまり、普通名詞ではなく固有名詞としての「コレクション自慢の会」です。

ところが、「コレクション自慢の会」という日本語が先にあって、それを“Collection Club“と訳したと思われていることが多いのですが、実はその反対です。私にとって、“Collection Club“の原型は、高校二年生の頃にシャーロック・ホームズを読んでいて、「ディオゲネスクラブ(Diogenes Club)」というクラブ（挿絵）の存在を知ったことに由来しています。「ディオゲネスクラブ(Diogenes Club)」とは、ホームズの時代に、ロンドンの社交嫌いの紳士が集まって、サロンを形成し、ホームズ自身も通っていたサロンです。

このサロンには最も大事なルールがあって、それは「サロンでは誰にも話しかけてはいけない」というルールです。なぜなら社交嫌いの人は話しかけられることを嫌うからです。高校時代の私は「社交嫌いの人がなぜ集まりたがるんだろう」と疑問に思っていましたが、その理由は今になってわかったような気がします。

とにかく、言葉の上では「ディオゲネスクラブ(Diogenes Club)」を2008年に名古屋大学の中に作ったわけで、“Collection Club“という言葉のほうが先行しているということです。

　名古屋大学のコレクション自慢の会は、2023年6月からオンサイトとオンラインのハイブリッド形式で行われるようになりましたが、まだまだ発展途上です。しかし、フランスでは、“Collection Club“という言葉を用いているためか、固有名詞としての“Collection Club“から普通名詞としての“collection club“になろうとしているので、それに応えるべく、私は常にチャレンジし続けています。