「メキシコ人」でもある長崎の被爆者

グティエレス一郎です。

今日、８月９日は長崎で原爆投下８０年を迎えます。

壁画プロジェクトは広島空港で実施するものですが、そこには長崎の被爆者の声も反映されます。というのは、２年前に本格的に弟の実と二人で動き出した時に、最初に企画書を見せてこのプロジェクトに賛同してくれたのが、メキシコ・グアナファト州在住の長崎出身の被爆者、山下泰明さんでした。山下さんが賛同してくれたことで「方向性が間違ってない」と確信できて前に進むことができました。そして、「原爆投下８０年」の節目にプロジェクトを実施すべきだと提案してくれたのも山下さんであり、それが大きな目標となりました。

今年の２月、壁画を制作するアドリーとカルロスは、実と共に山下さんに会いに行き、被爆証言を聞きました。やはり繊細なアーティストとして強く心を揺さぶられ、同時に山下さんと心が通じ合った温かい出会いだったことは、写真を見ても伝わるかと思います。

山下さんが住んでいるのは、広島県と友好提携のあるグアナファト州の「サン・ミゲル・デ・アジェンデ」という世界遺産にも登録されている街です。そんな美しい街で、山下さんは絵画と陶芸を制作するという、とても魅力的な一面もあります。

山下さんはメキシコ国内でスペイン語の被爆証言も精力的に行っています。本プロジェクトに賛同していただいている、教授・研究員のセルヒオ・エルナンデス・ガリンドさんは山下さんの証言会を支え、「ヒバクシャ、ヤスアキ・ヤマシタの証言」という本を２０２１年に出版してます。
https://inpsjapan.com/news/hibakusha-testimony-of-yasuaki-yamashita-a-book-that-recounts-the-tragedy-of-the-nagasaki-atomic-bomb-nearly-80-years-later/

メキシコは国連で採択された核兵器禁止条約（２０１７年）の事前交渉で貢献しましたが、実はそこにも山下さんの姿があったのです。条約が採択される３年前、メキシコは「核兵器の人道的影響に関する第2回国際会議」を主催し、被団協の田中煕巳さんやカナダ在住のサーロー節子さんと共に、山下さんも被爆証言を行いました。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/dns/ac_d/page22_000925.html

そこで、メキシコは「これまで兵器は違法化された後に廃絶されてきており、これが核兵器のない世界を実現するための道。この目標に資する外交プロセスを立ち上げる時が到来した。今こそ行動の時である。もはや後戻りできない地点である。」という力強い議長総括をまとめあげました。

実は、山下さんは数十年前からメキシコ国籍も取得してます。つまり、「メキシコ人の被爆者」でもあるのです。例え一人だけであっても、「メキシコ人被爆者」の声をすくい上げ、メキシコは「今こそ行動の時である」と世界に訴えかけ、３年後には、国連で核兵器禁止条約が採択されたのです。