ムサシの話

治療対象のチンパンジーの紹介の第2弾で、今回は、ムサシの話です。

ムサシとショウボウは、2012年に一緒に熊本サンクチュアリにやってきました。
それまでは、同じ施設内にいたのですが、別々のケージで暮らしていて、お互いの姿を見ることはありませんでした。ただ、長年近くで互いの声を聴きながら暮らしていたはずです。
そのためか、ムサシとショウボウは、熊本サンクチュアリにやってきたあと、お互いに頼りにしています。

ムサシが別のチンパンジーの争いに巻き込まれると、ショウボウがムサシに助け舟を出します。
そしてショウボウは、ムサシが違うグループで過ごすときは、ちょっと不安そうな顔をしていました（＊）。最近はショウボウもムサシ以外の友達が増えてきたので、ムサシがいなくてもそれほど心細くはなさそうですが。

＊野生チンパンジーの群れは、いつも一緒に暮らしているわけではありません。いくつかの小さなグループに分かれたり、その小さなグループのメンバーが入れ替わったり、あるいは仲間から離れてひとりで過ごしたりしています。熊本サンクチュアリでも、そうした野生チンパンジーの集団の特徴を生かせるよう、可能な範囲でメンバー構成を入れ替えながら小さなグループに分けたりして飼育をしています。

一方のムサシは、ショウボウが争いに巻き込まれても、積極的には助け舟を出しません。ただし、ショウボウの存在で、ムサシ自身が「無敵」になります。
ムサシとショウボウが同じグループの時には、ムサシが気に入らない相手は、ムサシから地の果てまで追いかけられることになります。
ところがショウボウが違うグループになった日は、ムサシは「借りてきた猫」のようにおとなしくなります。

そんなムサシですが、熊本サンクチュアリに来たばっかりの頃は、細々しい体型で運動はまったくできませんでした。それまで、走ったり登ったりできる環境ではなかったので、筋肉がついていなかったのです。熊本サンクチュアリの屋外運動場で木の柱を登り下りしようとするときには、腕や脚がプルプル震えていました。

いまではすっかり筋骨隆々になって、気に入らない相手を全速力で追いかけるようになったムサシ。
過度な争いは困りもので、ムサシのケンカ腰の態度に飼育担当は手を焼くこともありますが、以前は走ることすらできなかったムサシのことを思えば、元気にたくましく過ごせるようになったことは喜ばしいことだと考えることにしましょう。

最初は他に友達がいなくてお互いに頼りきりだったムサシとショウボウですが、それぞれに他の仲良しチンパンジー友達も増えてきて、いまではムサシとショウボウに別々のグループに分かれてもらうことも多くなっています。ムサシとショウボウを一緒にするとムサシが別のチンパンジー相手に揉め事を起こしがちなのでそれを防ぐため・・・ということもありますが、ムサシもショウボウも、それぞれに友達ができて穏やかに過ごせるようになったことを、彼らが熊本サンクチュアリにやってきて以来の苦労を知るスタッフとしては、嬉しく思っています。

ムサシの体内のC型肝炎ウイルスを薬で退治して、これからも穏やかに過ごしてほしいと思います。
彼も含めてチンパンジーみんなの治療が完了できるよう、引き続きのご支援、ご協力をどうぞよろしくお願いします。