尾崎会館・時計塔建設記（１１）「全国の学校と海外同胞」

1961年（昭和36年）7月に当財団より刊行された『尾崎記念会館・時計塔建設記』。
1月11日より、財団設立から現在までの歩みをREADYFORで連載中です。パート１１は、会館建設の基となった国内外からの浄財のエピソードについてご紹介します。

－全国青少年の涙ぐましい協力－

財団関係者を一段と奮い立たせたのはほかでもない。高等学校、中学校生徒の醵金（きょきん）と海外在留同胞の送金である。
松岡駒吉副会長は
「財界や公共団体の寄付だけで、これが建ったのでは意義が薄い。この募金を通じて後世の国民に尾崎行雄を印象付け、議会主義を教えねばならない」
と発議され、みずから高、中学の全国理事者に会われ、学校長の決議をとられるところまで持って行かれた。
その後、私は久保（作次）事務局長と数回各種の学校長会議に出席して醵金を依頼したが、全国から次々に来るわ来るわ、大は２万数千円から小は１７円まで。
遂にその年の末、２７０万円以上が集まったのであるから、塵も積もれば山となるのたとえで、この高、中学生の醵金こそ今度のことの最大の意義ともいえる。
財団では近く約束の「尾崎行雄伝」をこれらの学校に配布したいと計画している。

海外同胞の醵金は私の発意で、咢堂は常に海外への平和移民と進出を唱えていたから、是非これを実現したいと理事会に提案割いて賛成を得た。

私は（昭和）３４年夏、北中南米視察旅行のかたわら、各地でこの事を訴えた。各地の日本大・公使館の協力でこれも成功を収めた。
南米サンパウロ、北米ロサンゼルスの両地を筆頭とし、ハワイ、サンフランシスコ、ニューヨーク、シカゴ、トロント等の北米・カナダを始め、南米のブラジル、アルゼンチン、チリ、ウルグアイ、中米のキューバ、パナマ等からもぞくぞく集まり、総計４００万円を超えたのも驚異的であった。久保事務局長もハワイの募金に出かけ成果を収めた。

私がカナダのトロントで第３世かの実業家に会った時に、彼はよく廻らぬ日本語で
「日本の政治家は誰が良いのか悪いのか区別がつかない。ただ戦争を起した軍人政治家が悪くて、その時平和を護り我々海外同胞の事を心配してくれたのが尾崎さんだったことだけは知っている。少しでも送金したい」
といったのには何かジーンと頭にこびりつき、涙が滲んで来た事を思い出す。

（本文ここまで）

１枚目：咢堂だより（全国の学校への呼び掛け特集号）
２枚目：尾崎行雄伝（沢田謙、『世界と議会』2015年春号）

「尾崎行雄伝」は、『世界と議会』2015年春号より復刻連載中です。
最新号となる60周年記念号では、「桂内閣弾劾演説」を収録予定です。