生きているものには等しくある老いと死

筆者自身もまだ受け入れられないのですが、レーベンの毎日としてふれずにはおれない大きなことがありました。

 

保護犬たちの指導犬であり、代表の家族の大型犬、ヴェルが亡くなりました。

 

彼はもちろんレーベンハウスの犬リーダーで、家に出入りする犬やボランティアを広く受け入れ、多くのことを教え、来客をあたたかく迎え、みんなの尊敬を集めていました。でも、甘えん坊でおでかけが大好きで、お気に入りの犬や人が時によってあったり、代表の指示に誰よりも忠実で、当たり前の普通の一頭の犬でもありました。

 

代表がヴェルを家族に迎えた頃は、保護活動の規模も今ほどではなく、少しずつヴェルの身の回りは様子が変わっていったと思います。楽しくなった部分もあっただろうし、もっと代表などご家族との密な時間が欲しかった部分も大いにあったでしょう。そういう意味で、ボランティアの一人一人は、ヴェルに感謝と申し訳なさを感じていました。

 

 

でも、ヴェルはそんなおセンチな感情を超えて、信頼感がすごくて、迫力というか厳かなオーラがすごくて、それはリーダーの責任感かもしれないし、自分が代表に求められている役割はこれですから、というしっかりとした覚悟を感じさせました。だから、ごめんねなどという人間の気持ちは彼には不要で、むしろ邪魔だったと思われ、人から出すことは失礼だと思うのでした。

 

 

新人のボラはお散歩から身体のケアから、食事やおやつから、全てのお世話の基礎をヴェルをモデルに練習し、覚えました。犬を守るために一瞬も気を抜いてはならないこと、犬に指示を受け入れてもらえる毅然とした人であらねばならないこと、犬社会のルールや犬という動物の感じ方捉え方など、とにかく全てでした。（もちろん代表から人間の言葉でも教わるわけですが）

 

それとあわせて、ヴェルは単純に魅力的で、素敵な犬でした。与えられた個性としての美しさと共に、他の犬や人を思いやる賢さと優しさにあふれている、素晴らしい人格？中身の犬でした。それが誰にも伝わり、みんながヴェルを好きだったし、ヴェルがどうして欲しいかを考えようとしていました。

 

そんなヴェルが少しずつ体調を崩して横になることが増えていきました。それでもそのオーラはますます増し、私達にみんなに等しく老いはくること、それを心静かに受け入れることのすごさを教えていました。最後の最後で生命の灯を燃やし切る姿は、途中で生命を絶たれる境遇の犬がどんなに無念だろうということも想起させ、生命の重さを深く考えさせました。

 

私たちボランティアは、家族の時間をどうしてもヴェルに持って欲しくて、旅行に出ていただきました。それはそれは嬉しそうな表情で、生き生きとしていました。予定がなかなか組めなくて、正直ひやひやしました。間に合って本当に良かった。

 

（足先の保護で、カバーを履いています）

身体に痛みが出ると、人も動物もどうしてもいらいらすることがあります。でも、犬だからそれを言葉で説明できない。動物はなるべく弱みを見せないようにすると言われていますが、隠しきれないレベルで、ヴェルはその辛さに耐えていました。最後の最後まで立派でした。その姿は荼毘に付されても、威厳に満ちていて、人間の生命と何も重さに差がないことを教えてくれました。ボランティアから贈る言葉としては、「ありがとう」に尽きる功労者でした。

 

 

くしくも近い時期に、人間界でも栄誉賞を受けた人物が亡くなりましたが、私たちはヴェルからもらったメッセージを活動に必ず活かしていくことを約束します。気の利いたことは言えないけど、ありがとう。ずっと大好きだよ。先に向かった仲間と待っていてね。また会おうね。