『竹の海賊、たけのこの海賊』

　弓削島には、竹林が多い。
　もともとが竹だらけの島だったわけではなく、竹を育てているわけでもない。
　段々畑や野山が荒れて、繁殖力のある竹が増えたのだ。
　いわゆる放置竹林問題は、全国的なトピックだ。

　竹は生長が早いので他の植物の育成を阻害するため、地域の植生や生態系を壊すといった問題や、地下茎が浅く張るため土壌保全力がなく何十年か経つと一斉に枯れてしまうなど、土砂崩れのような災害や猪などいわゆる害獣が増える要因ともなっている。

　根本的な対策が求めらる厄介な問題ではあるのだが、島の人にとっては、一方で生活の一部となっている面もある。

　祭りのノボリ旗の支柱に切り出した真竹を利用したり、仏事に笹の飾りを使ったり、生け垣の材料に使ったり、笹の葉をお茶にしたりもする。

　『海賊の学校』のプログラム開発においても、放置竹林の問題にも触れながら、竹を使ってコップや箸など自分で使う食器づくりや、竹のランタンづくりなどを試している。

　そして、この季節、竹林は重要な食糧庫となる。

　「たけのこ」だ。

　たけのこの栄養は、食感から「食物繊維ばっかりなんじゃいか」と思っていたら、意外や意外、先端部分にはタンパク質、脂肪、ビタミンA1、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンK、鉄分などが多く含まれ、根元には大腸の働きを活発にするキシロオリゴ糖も含まれているという。

　真竹、孟宗竹、破竹と、春から初夏にかけて島ではたけのこが食卓を彩る。

　僕たち家族もまた、移住してきた早々から、たけのこ採り名人にたけのこを掘りに連れていってもらったり、朝起きたら玄関の前にたけのこがどっさり積まれていたなんてこともしばしばあった。

　たけのこは、先端がまだ地上に顔を出す前のものがやわらかく美味とされる。

　お察しの通り、地上に全くでていないものを地上側から地中を想像しながら探し出すのはなかなか至難の業である。
　名人は、それを土の微妙な凹凸やわずかなひび割れを手掛かりに見つけ出すのであるが、名人でない僕にはなかなかできない。

　ところが、子どもというのは自然の息吹を感じとる力が備わっているのだろうか。息子が三歳くらいのころ、初めてのたけのこ掘りにもかかわらず、一発で地中のたけのこを見つけ出した。

　先日、久しぶりにたけのこを掘りに行った。毎年お手伝いをしている「島四国」（別途紹介したい）の「お接待」の準備で、前々日に竹林に分け入った。

　この数年は、猪に食べつくされることもしばしばで、他の島へたけのこ狩り遠征なんてこともあったのだが、今年は随分と豊作らしく、猪もおいしい先端だけを食べてあとは散らかしっぱなし。たけのこの残骸の散乱する光景の中でで、猪がまだ手（前足？）をつけてないたけのこを見つけ出し頂くわけであるが、名人たちはあれよあれよという間に、どんどんたけのこを掘り出す。
　僕も見つけてもらったものを見様見真似で掘り起こしたり、足の裏で土の感触を探りながら、たけのこ探しにいそしんだりした。

　そして、ついにその時はやってきた。
　見えない地下に張り巡らされた地下茎を想像しながら、当たりをつけて、足で地面を軽くなぞっていくうちに少しばかりの違和感を感じた。
　鍬を入れてみると、小さなとんがりが見えてきた。
　歓喜のあまり絶叫。
　しばし感動をかみしめたあと、懸命に土を掘り返した。

　名人たちからしてみれば、相手にもしないような小さなたけのこで、形も曲がって不細工だが、見えない獲物を掘り当てる宝探しのような興奮と、何年か目で初めて夢をかなえた達成感は、たとえ名人には笑われようと何ものにも代えがたいのである。

　ほんの一時間程度で、掘り出したたけのこが山のようになり、ずっしりと重量を感じながら、持ち帰り、皮をむいて下茹でした。

　あまりの量に、皮をむくのも一苦労であるが、何とも気持ちの良い汗であった。

　海に、山に、本日も海賊日和なり。

　海賊の学校　兼頭一司