統合失調症という感性を本に!『めにみえぬものたち』を届けたい
統合失調症という感性を本に!『めにみえぬものたち』を届けたい

支援総額

3,085,000

目標金額 2,600,000円

支援者
198人
募集終了日
2018年5月31日

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2018年05月28日 21:21

ゆもちゃんは、わしのお守りじゃ

父は、5年ほど前から、幻覚や、見たり、妄想を抱いたりすることは、なくなった。「電波の彩色って、どんな色だったの?」と聞いても、もう見えた時の記憶すらないようで「おぼえとらん」という返事しか返って来ない。しかし、父の中には、豊かな感性と、その近くにある危うい狂気が、まだまだ潜んでいる。

父は自分のパーソナルに近い所有物を他者へと借すことが極端に嫌みたいだ。父は、自分の車を、自らの分身のように感じている所がある。だから、間違って借りると大変なことになる。借りて数時間で、父に潜んでいた狂気が、蠢きはじめる。

 

「あいつ(大樹)、わしの車で、街を暴走して、ガードレールを破壊して、遊んでるんじゃろ!」

 

「ああ、、わしの車で、橋から、車ごと、突っ込んでしもうた、、

 

  あいつ(大樹)は死んでもええけど、わしの大切な車が!ああっ!」

 

などと、家では、父の妄想が爆発して大変な騒ぎになっているらしい。父の妄想の中で、息子は、破壊をくり返す、映画にでてくるような暴走族にもなるらしい。母の松子さんに、妄想へ付き合わせるのも大変なので、二度と車を借りないことにした。もう四年ほど前から借りていない。しかし、三年前にどうしても借りなければ行けない日が訪れてしまった。

 

今から三年前、私たちは車を所有していなかった。その頃、妻のミワコちゃんは、妊娠中だった。島には子どもを産める病院はない。だからレンタカーを借りるか、バスで、橋を渡って、尾道にある病院に通っていた。そして、ついに、満月の夜に陣痛は訪れた。真夜中の0時をまわった頃。もちろん、島のレンタカー屋さんは空いていない。バスの始発は朝の6時だった。どうしようもなかったので、仕方がなく、父に連絡した。

 

「車は、借せん」

 

「朝まで、待ったら、バスがあるじゃろ」

 

これから、産まれる新しい命や、陣痛に苦しむ、ミワコちゃんのことはどうでもいいようだった。父の言葉には、冷たい無機物のようだ。心配なのは、自分の車のことだけに感じられた。

 

ミワコちゃんは、堪えきれなくなって、SNSに陣痛をほのめかす内容を書いた。勘のいい友達が察してくれて、すぐに車で家まで来てくれた。友達の行動が本当に嬉しかった。ありがとう。そして、無事に病院へ行き出産することができた。しかし、ミワコちゃんや、私は、父へ対して持つ不信感が拭えないものになりそうだった。こんな命にかかわる緊急時に車を借してくれないなんて、信じられなかった。

 

そんな時に、松子さんが、ミワコちゃんへ涙ながらに言った。。

 

「嫌いにならないであげて」

 

もちろん、松子さんだって、普段は、父へ悪態づいたり、することだってある。しかし、ここまで、父のことを肯定できる人は、この世界にいないと思う。「これも、お父さんの個性だから」そう言って、すべてを包みこむ。ほんとうにすごい。その松子さんの言葉や、その姿を見て、ミワコちゃんも、父を嫌いにならずに、仲良くしてくれている。

 

そんな父が、車という私的領域に、踏み込んでも、平常心でいれる人物が現れた。それは、私の娘のゆもちゃんだ。ゆもちゃんが一声かければ、車でどこへでも連れて行ってくれる。そして、周囲に暴言を吐くようなことも一切なくなった。父にとって、ゆもちゃんの存在は、畑で野菜を育てる以上に、価値のある存在なのかも知れない。

 

芸術の語源には、何かを育てるという意味があったそうだ。小さな命が育って、その肌にふれる。そこには、何ものにも変えがたい喜びがある。根源的ものの中には必ず、芸術的な何かが潜んでいる。父は、畑をして、土に触れることで、自然の中に詩を発見した。そんな父が、子どもの感性を、新たな詩情で見つめている。

 

「子どもって、こんなに、可愛くて、豊かで、おもしろいんじゃな」

 

「わしは、子どもを、育てるよろこびを知らずに生きてきたんじゃな」

 

父は、社会の精霊として、会社でひたすら働いた。朝を早くから、深夜まで。だから、私たちが子どもだった時の成長をほとんど見ることがなく、生きてきた。

 

「森羅万象の生きものの中で、人間の赤ちゃんは、もっとも手がかかるし、おそらくもっとも弱い存在じゃろう」

 

「わしは、その弱いものを育てること、守ることに、人間としての何かしらの意味があるとおもうんじゃ」

 

「お母さんたちは、大変じゃけどな」

 

「すくなくとも、ゆもちゃんといることで、わしの精神は安定するんじゃ」

 

「ゆもちゃんは、わしのお守りじゃ」

 

「お守りは、弱いけど、強い存在じゃな」

 

「子どもには、大人にたちにとって神さまのような、力があるんじゃないか?」

 

ゆもちゃんは、どこまでも、私たち家族に幸福を運んでくれる。娘は、やんちゃなので、疲れる時もある。しかし、そんな大変さを越えた何かを私たち家族へ与えてくれる。じいじの頭をへしりと叩き、「じいじ、のばか!」をけらけら笑う神さまは、父にとって、自分の私的領域を、曖昧にして、優しくなれる存在なんだろう。父の笑顔から、狂気は影を消し去ろうとしている。父は、会社の利益を追求することではない神さまを見つけた。土に触れること。子どもを育てること。この神さまたちは、今日も、私たちの精神を、太陽のように照らしつづけている。

リターン

5,000


書籍「めにみえぬものたち」サイン入り 巻末にお名前クレジット

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※1冊は、ご支援者様へお届けいたします。
※0円で本を届けてくれる人には2冊まで、ご希望の冊数を進呈します。周囲の方へ配布頂ければ幸いです。

申込数
151
在庫数
制限なし
発送完了予定月
2018年9月

10,000


オリジナル手描きトートバック

オリジナル手描きトートバック

•オリジナルの手描きトートバックをプレゼントします。作家本人が1枚づつトートバッグへ絵を描きます。世界に1点のトートバッグです。絵柄は、すべて違いますので、こちらで選んでお届けします。絵本などを入れて持ち運べるサイズのトートバッグです。図書館や、本屋さんへのお供に最適です。

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書籍「めにみえぬものたち」サイン入り 巻末にお名前クレジット

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