2024年1月14日「粉とプランクトンに関する一考察」

この写真のORIネットには直径1.6 mの円形のフレームが使われています。直径は1
mでも1.5 mでも2 mでもなく、1.6 mです。なぜか。ピンと来た人は数学が得意な方で
しょうか。直径を1.6 mにすると面積がちょうど2 m2になって、採集時に網がろ過し
た水量の計算が簡単ということを、学生の時に講義で聞いたことがあります。ろ過し
た水量は「網口の面積」×「網を引いた距離」で計算され、採集されたプランクトン
の数をこの水量で割れば海中のプランクトンの密度が計算できます。計算機の発達し
た時代に、このちょうど2 m2ということにどれだけの意味があるのかは分かりません
が、このフレームのサイズはむしろ扱いやすさなどから、考案されて以来50年以上使
われています。
　今回私たちは0.500 mmのメッシュサイズの網地を使っています。この網地はほかに
0.335 mmや0.200, 0.060, 0.020など様々な規格があり、研究の目的に合わせて選択
されます。じつはこの網地、プランクトンネット用に開発されたものではありませ
ん。これはもともと粉をふるうことを目的に生産されているらしいです。考えてみる
と世の中にはいろんな粉があります。小麦粉などの食用の他、工業用にも粉がありそ
うです。具体的にどんな粉に使われているかまでは調べたことがありませんが、いず
れもふるった粒子の大きさが均一であることは粉製品の質に求められるはずです。こ
の品質を保証するのが網目の正確性・均一性ということになります。網目の0.500 mm
というのは0.5 mmでも0.50 mmでもありません。小数点以下第3位まで保証していると
いう意味です。海の生態系を把握するために私たちはサイズごと（例えば
0.020-0.200 mm）に生物の量（密度）を調べるという方法があります。網目の正確
性・均一性は、粉の品質を保つのと同じようにプランクトンの調査にも求められるわ
けです。ちなみに、この網地（ふるい）を作っているのは世界で１～２社のみとのこ
と。きわめて高い技術が世界の粉とプランクトン研究を支えているのです。