間にあるもの

　プロジェクトの概要ページにも書いた通り、私は「トイビト」を開設する前までコピーライターをしていました。

　コピーライターは時に、翻訳家や通訳にたとえられます。商品の特性やクライアント企業のメッセージをわかりやすい（だけではないのですが）言葉にして消費者に届ける。ここでのポイントは、コピーライターが企業の人間ではないということです。かといって、純粋な消費者でもない（依頼されて書くわけですから）。企業と消費者の「間に位置する」存在。私の経験上、すぐれたコピーライターほどそれが意味することを理解し、両者との距離を巧みにコントロールしています。

　この「間に位置する」というのは、コピーライターに限らず、私がこれまでにお話をお聞きしてきた研究者の方々にもあてはまるように思います。学術研究の専門的な内容を、素人の私にもわかるようにお話しいただいたことはもちろんですが、加えて、先人たちの研究を受け継ぎ、次の世代へとつなげるという意味でも正に間に位置する存在であり、また、そのことを強く意識しておられるように感じます。

　しかし、さらに言うならば、すべての人間が実はそうなのではないでしょうか。私たちは誰もが同時代の、あるいは時代を越えた誰かと誰か、何かと何かの間に位置し、それをつなげる存在なのではないでしょうか。

　当方のプロジェクトは研究者と一般市民をつなぐ新しいメディアをつくることです――「メディア」という語は、一説によると、英語のmedium（中位、中間物）に由来するそうです――。しかしそれは、純粋な研究者と純粋な市民が二項対立的に存在しており、その両者をつなげるということではありません。研究者もまた市民であるのは当然ですし、自ら問いを立て、その道を探求している人は、たとえ専門的な訓練を受けていなくても、「研究者」だと私は思います。私たちは誰もが間に位置し、自分の位置を模索しつづけるトイビトなのではないでしょうか。

　専門分野、知識の多寡、社会的立場といった違いを超え、誰もがトイビトとして学び合う場の実現をめざして。先の見えない苦しい日々が続きますが、これからも、目の前のできることを、一つひとつ、積み重ねていきたいと思います。