住職のひとりごとコラム：時折、舞い込む予期せぬ依頼　完結編

春の陽光が山里を優しく包み込む四月五日、午後一時半。私は、有田川町金屋の立石にある、静寂に包まれたお寺の境内に車を停めました。

長い年月、人々の祈りが静かに受け継がれてきたこの場所から、その未来へ、新たな希望の光を灯す一歩を踏み出しました。

緑深い木々に覆われた急な坂道を一歩、また一歩と進むたびに、息が弾み、心臓の鼓動が体中に響き渡ります。しばらくすると、天高く伸びる竹林が目の前に現れ、風にそよぐ竹葉の音が、静寂な空間をやさしく包み込みました。その奥には、さらに険しい小道が続いていました。足元は不安定で、慎重に一歩ずつ進む必要がありました。

息を切らしながらようやくたどり着いた先には、神聖な空気が漂う、息をのむほど美しい山の光景が広がっていました。その荘厳さに、思わず立ち止まり、言葉を失いました。どこか、高山寺の裏山、明恵上人が修行に励んだ場所を彷彿とさせる、神々しい佇まいでした。同行していた副住職も、その光景に深く心を打たれ、静かに「まるで明恵上人の修行場のよう」と呟きました。その一言が、この場所の持つ特別な雰囲気を物語っているように思えました。

さらに山道を進むと、一人のご高齢の女性が私たちを温かく迎え入れてくださいました。八十八歳になられるその方の傍らには、共にこの地を守り続けてこられたお二人の姿がありました。この山奥の地には、もはや住む人もありませんが、それでもひっそりと祀られてきたお大師様の祠が、静かにそこに佇んでいました。倒木に押し倒され、危険な状態になっていた祠を前に、私たちは静かに手を合わせ、この地に宿る祈りの重みに深く心を打たれました。

今回の目的は、この石仏を麓の内崎山へと移すこと。しかしその道のりは、想像以上に険しく、石仏の重さと悪路が私たちの行く手を阻みます。それでも、年上の男性の力強い助けがあり、皆で力を合わせて、なんとか成し遂げることができました。実は、三十年前に購入したトレッキング用のリュックが、この困難な作業において、大きな助けとなりました。

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皆で力を合わせ、ようやく石仏を内崎山の花舞台の下に安置することができました。その場で改めて手を合わせ、長年の祈りの歴史に感謝し、これからの平穏を心から願いました。まだお社を建てる余裕はありませんが、クラウドファンディングの支援が多く集まれば、祠を建てたいと願っています。

参道を戻る途中、八十八歳のお婆様が安堵の表情で微笑まれているのが目に入りました。その穏やかな笑顔には、長年背負ってきた責任から解放された、深い喜びがあふれていました。そして、その姿をやさしく見守るお二人の表情にも、温かなぬくもりが広がっていました。その光景を目にした瞬間、胸の奥が熱くなりました。

祈りとは、このように静かに、そして確かに受け継がれていくもの。その尊い瞬間に立ち会えたことへの感謝の念が、私の心をやさしく包み込んでいました。

立石の地を長年守り続けてこられたお大師様、そして皆様の祈りに込められた想い。この先もどうか、私たちを温かく見守っていてください。