「トイビト」の誕生

　４年前に「トイビト」をはじめるとき、数人から「これはどうやってお金にするの？」と聞かれました。当然の疑問です。「トイビト」のようなWebメディアはページの一部を広告スペースとして提供し、その売り上げによって収益化するのが一般的です。しかし私はこのやり方をとろうとは思いませんでした。

　広告媒体としての価値は、基本的に、どれだけの人がそのサイトや記事を見ているかによって決まります。そうなると、取り上げる記事のテーマも必然的に「多くの人が関心を持ちそうなもの」に偏ってしまい、「さまざまな分野の研究を紹介する」というサイトの趣旨に反すると考えたのです。

　それでひとまず収益化の件は置いておき、費用はすべて持ち出しにして、とにかく自分がいいと思うものをつくることにしました――運営費用はコピーライターとしての受注仕事によって捻出することにしました――。しかしこのやり方では、受注仕事が増えるとサイトが更新できず、受注仕事を絞ると運営費用が捻出できないという、これまた当然の事態に陥って現在に至っています。

　今回の「アカデミックSNS」開発の目的には、もちろん、この課題の解決も含まれています。考えているのは月額課金、いわゆるサブスクリプションです。といっても、記事の閲覧を有料化するのではなく、「アカデミックSNS」でできることでご紹介した、オリジナルノート作成に関わる機能の一部を有料にしようと考えています。記事を読むことにではなく、それを基に考え、自分なりにまとめて、他の人と共有するという過程の一部に対してお金を使う。思えばそれは、この４年間、私が研究者の方々のご協力を得て、「トイビト」でやってきたことそのものでもあります。つまりこれが実現すれば、「トイビト」の中に、ユーザーの数だけ、新たな「トイビト」ができていくのです。

　もちろんこれは、現段階では絵に描いた餅です。このサービスにお金を出すだけの価値を見出してもらえるかはまったくの未知数ですし、そもそもこのクラウドファンディングが失敗したら、そのチャレンジさえできません。しかしもしも、これがうまく軌道に乗り、「トイビト」の連鎖が実現したのなら、そのときが本当の「トイビト」の誕生なのだと思います。